価格は顧客が決めるが、顧客は経営が決める

こんにちは。築山です。

企業が売上と利益を上げるために、価格は重要なポイントとなります。一般的・学問的に言えば価格は需要と供給のバランス、言い換えると顧客(と競合を含めた市場)が決めています。

「マーケットイン派」と「プロダクトアウト派」の闘い

マーケティング領域において、顧客と市場を見て値決めをする方法を「マーケットイン」と呼び、自社の商品やサービスから値決めをする方法を「プロダクトアウト」と呼びます。そして「技術をひけらかすのではなく、もっと顧客のニーズを汲み取るべきだ!」という「マーケットイン派」と、「バカヤロー、それやったからどんどん低価格化したんだろ。アップルみたいに良いものを作れば値段は高くても売れるんだ!」という「プロダクトアウト派」の議論が繰り広げられていたりします。
しかし、両者はいずれもアプローチ方法の違いであり『顧客に選ばれること』が最終的な目標であることは変わりません。マーケットイン派が「女性客のニーズに応えました!」と言ってピンクの車を発売しても、女性陣からは「イタピンク(女性=ピンクという紋切り型の浅い発想)」と揶揄されますし、プロダクトアウト派が「これ一つで米料理が全て出来ます!」と言って多機能炊飯器を発売しても、主婦からは「操作が複雑で、どれも仕上がりが中途半端」と不評を買います。どちらも「顧客に選ばれていない」という点で失敗なのです。
プロダクトアウト派がお手本とするアップルのiPhoneは、顧客ニーズを「汲み取る」どころではなく「掘り起こす」レベルまで考え抜かれたマーケットイン結果であり、その後の進化も
「顧客に選ばれ続けるために」行われています。

顧客に選ばれたい一心で低価格化が始まる…

製造業の場合は高い商品力があれば顧客に選ばれることは可能ですが、それが出来ない場合は低価格化の方向に進みます。しかし、例えばスーパーのように、扱っている商品が他社と同じ小売業の場合は差別化は難しく、最も顧客インパクトがある「値引き」という手段を安易に使いがちです。プライベートブランドも、一見すると商品力で勝負しているように見えますが、その実は低価格と利益の確保です。
低価格化が始まると、販売数が増えるので従業員の仕事が増える一方で、粗利や営業利益は減るので、従業員への還元や顧客に選ばれるための投資が後回しになります。そして、これが続くと企業と従業員が徐々に消耗していきます。

値引きをやめたら売上が上がった?

築山が、ある沖縄の小売チェーンと一緒に取り組んだのは「値引きからの脱却」でした。店舗数で勝る競合に低価格戦を仕掛けられ、それに対抗するために各店舗がバラバラに値引きを始めた結果、客数も客単価も下がり、売上と利益が減少していました。
調べてみると、3日に1日はどこかの店が「セール」をやっており、顧客もどの店がいつどれだけ安くなっているのか把握出来ない状態でした。人員削減と低価格戦で激増した顧客の対応に追われサービスレベルも劣化、チェーン店としての体裁すら危うい状態でした。それが原因で、低価格化が常態化すると顧客に飽きられてさらに客数が減少する…という負のサイクルに陥っていました。

1. 顧客は誰なのか?

まず、コンサルティングで行ったのは現状分析。特に顧客分析でした。店舗売上の8割を占める上位2割の得意顧客の不満は「いつ行っても混んでいて落ち着かない」「安いのは嬉しいけど、欲しい商品の品切れが多過ぎて意味がない」というものでした。一方、売上の2割を占める残り8割のライト顧客の不満も「初めて(久々に)来たので、欲しい商品がどこにあるか店員に聞きたいけど忙しそうで声をかけづらい」「日替わりセールは嬉しいけど、忙しいのでその日に必ず店に行けるわけではない」というものでした。顧客に良かれと思ってやっていた低価格ですが、皮肉にも誰も満足していない、まさに『誰からも好かれるものは、誰も熱狂させられない』状態になっていたのです。

2. その顧客は何を求めているのか?

その次に、得意顧客とライト顧客、男性客と女性客、家族と単身者など、顧客を細かくセグメントして分析しニーズを徹底的に調べ、それぞれ一番需要の高いニーズ一つだけに絞り込み、競合との格差も考慮した上で、そこに全てのリソースを投下しました。それが成功したら二番目のニーズ、それが成功したら三番目のニーズ…という具合に進めていきました。自分たちの首を絞めていた「値引き」も、それらのサービスと入れ替わりで止めていきました。
『ランチェスター理論』忠実に則り、扱っている商品が同じ小売業でも、顧客を絞り込んで、商品で競合より圧倒的な規模を揃えたり、競合にないサービスによって利便性や提案性を高めて一点突破すれば、低価格戦からの脱却は可能であることが証明されました。小売業にとっては、品揃えやサービスの質がアイデンティティなのです。

3. そして売上は上がった…

「値引きを止めて客数は減るが、客単価が上がるので売上は上がるだろう」と予想して対策を続けていましたが、競合が低価格戦を始めてマイナス影響を受けた7ヶ月と、対策開始後の7ヶ月の客数・客単価・売上を比べてみると、なんと客数は減らず、客単価が上がった分だけ売上が上がり、予想以上の成功をおさめることができました。しかし、数字の結果以上に、店舗の従業員が顧客視点で物事を考えるようになったこと、以前の消耗が嘘のように楽しそうに仕事をするようになったことが本当の成果だと思っています。

価格は経営が決める

コペルニクス的発想の転換ですが、顧客に選ばれるためには、顧客を選ぶことが重要なのです。選んだら徹底的にその顧客視点で戦略を考える。それを実行支援をすることが経営と経営コンサルタントの仕事です。「価格は顧客が決めるが、顧客は経営が決める」つまり「価格を決めるのは経営の仕事」ということです。
値引きで顧客を集めるのは簡単ですが長続きしません。何よりも、従業員の消耗が激しく賃金にも還元されにくいので、彼等の消費が活性化しません。消費が活性化しないと、企業の売上にもつながりません。長引く低価格戦は、その会社だけでなく、その地域経済をも衰退させる危険性を孕んでいます。築山は経営コンサルタントとして、まずはクライアントの売上と利益を上げることで、最終的には沖縄を豊かにするビジョンを持って仕事に取り組んでいきます。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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