経営コンサルタント、就活生をコンサルする

こんにちは。築山です。

先日、過去にお手伝いしたクライアント企業の現場でアルバイトをしていた大学院生K君から、就職活動で使うエントリーシートの添削を依頼されました。

アルバイト時代のK君は、常に前向きな姿勢で仕事をして周囲のお手本となり、自分の考えや意見をしっかり持ち、それが故によくマネージャーと「意見の擦り合わせ」という名の喧嘩もしていましたが(笑)、優秀な人材とはそういうものです。

彼は、大学で生命情報科学を専攻し、香港大学でのインターンを経た後、現在は国立台湾大学で修士号の獲得を目指して留学中です。台湾から送られてきた、米国で開催される就活フォーラム用に書かれたエントリーシートは、読みやすくまとめられていて、最初は添削の必要が無いように感じました。

しかし、読み進んでいくうちに、経営コンサル屋の「習性」がムクムクと湧いてきました。『誰に向けて何を伝えるために書かれたものなのか?』が少し分かりづらかったんですね。

優秀な学生であるK君が、周囲にたくさん居るであろう人たちの中から、過去に短い期間一緒に仕事をしただけの築山をわざわざ選んでくれたことを光栄に思ったので(若干、余計なお世話とは思いながらも)築山にしか出来ない方法でお手伝いすること(=コンサル)を彼に申し入れたところ、承諾を貰いました(このブログも彼の承諾を貰って書いてます)。

 

志望企業の分析で分かったこと

ヒアリングをしていくと、K君には志望する企業がありました。ある業界の川上から川下までを総合的にカヴァーしているS社で、築山も知っている日本の大企業です。

彼が大学で研究している分野にも関係する事業をしており、ここ数年の売上と利益も伸び、社員の平均年収も高い会社です。なるほど賢明な選択だなと思いました。

しかし、企業分析をしてみると、彼が学んできたことを活かせる可能性は低く、さらに言うと10年後に存在しているかどうかも怪しく思えてきました。何が問題かというと、S社の展開している「市場」と「ビジネスモデル」です。

S社の収益の柱は販売型の事業Aと事業Bで、この二つで売上の97%、利益の92%を占めています。しかし、それぞれの事業の日本市場を見ると、20年間でそれぞれ6割、7割まで縮小しています。
S社にはもう一つ事業Cという研究開発型の事業があり、成長しており利益率も高いものです(Aの約10倍、Bの約2倍)。K君が学んだことが活かせると魅力を感じているのはこの事業ですが、S社全体の貢献度は低く、しかも成長市場が故に競合の参入も多く、設備市場に関して言うと数年後には縮小すること(=コモディティ化)が予想されています。

縮小が明らかな衰退期の市場においては「生き残りをかけたシェアの奪い合いと残存利益の総取り」という力学が働きます。具体的に言うと、規模の小さな会社は事業売却をしたり、大きな会社はM&Aをしたり海外進出でさらに規模を大きくしようとします。
そこで、事業Aと事業Bの市場シェアを見てみます。市場シェアを見るときの指標に「クープマンの目標値」というものがあります。詳しくは下記リンクを見て頂くと分かりますが、ざっくり言うと「市場影響シェア(26.1%)以上を確保しないと競争によって消耗する」というものです。

ランチェスターの法則を研究したアメリカの数学者B.O.クープマンによって導き出された「ランチェスター戦略モデル式」により作られた市場シェア理論のことです。この理...

まず事業Aはシェアこそ1位ですが規模は9%と小さく、しかもM&Aによって誕生した2位の新会社との差は殆どありません。また事業Bについてもシェア4位ですが、上述の市場影響シェアには程遠く、1位との差は3倍以上あるので逆転はかなり難しい状況です(事業Cに関しては市場シェアの数値が見付からなかったので割愛します)。
例えるなら、様々なカテゴリの商品を一箇所に集めた百貨店業界が、各種カテゴリキラー店の登場や、ネットショッピングの台頭、顧客ニーズの多様化に対応できず、その総合性と規模の大きさ故に衰退してしまったのと同じような構図が、S社にも見られるわけです。

これらのファクトから、S社の企業分析とK君へ行ったアドヴァイスは以下です。

数値分析
・総合的に見れば大企業だが個別事業に課題あり
・主たる事業の国内市場は縮小、他社との競争が激化
・成長事業の貢献度は小さく、市場も縮小予測

S社に今後起こり得ること
・他社との競争激化による消耗や利益減少
・設備投資や研究開発費の削減による利益確保
・低採算事業の売却や他社との統合

K君へのアドヴァイス
・メリットは高収入と海外勤務の可能性のみ

・大学での専攻を活かせる可能性は少ない
・長期のキャリアプランやスキル習得は難しい
・短期のステップアップの為の場所としては良い

 

自分の経験からも…

築山も20年前は、K君と同じように就職活動をしていました。その時は、K君ほど考えもせず(そして柄にもなく)商社や銀行などの面接を受けていましたが、それらの会社は現在、統廃合によって全て消滅しています。

結局、その対極とも言えるベンチャー企業に就職し、様々な職種やマネジメント経験を積んで、今の経営コンサルタントとしての基礎を養うことが出来たのですが、入社時に扱っていた中心商材は10年も経たないうちに別カテゴリの商材によって駆逐されましたし、現在はその会社のいる市場自体が急速に縮小しており、次のビジネスモデル構築に悪戦苦闘しています。

築山がサラリーマンをやっていた過去20年間でさえ、これだけの変化があったわけですから、これからK君が飛び込もうとしているビジネスの未来は、さらに変化が加速し混沌とするでしょう。当然ながら、築山自身もそこに含まれています。

未来を予測することは難しく、楽観的に考え過ぎても不安になりますし、かといって、悲観的に考え続けても辛くなるだけです。
確実なことは、未来とは「今の先に確実にくるもの」であり「今とは違う状態である」ということです。
そうであるならば『今をどれだけ違う視点で見て行動するか?』ということだけが、未来に対して唯一出来ることです。
違う視点とは、自分が持っていなかった外からの視点であり、エゴや情緒的判断を抑えて数字などのファクトだけに基づく視点
、マーケティング感覚と言い換えることができます。

 

就活生K君のマーケティング分析

S社の企業分析だけでは不十分なので、就活生K君のマーケティング分析をしました。就活市場においてK君を「商品」とした場合、どんな企業(顧客)に何を(価値)を売り込んで採用してもらうか?それらを整理整頓した上で、自身の性格や価値観を踏まえて採るべき戦略をK君に決めてもらいます。
ちなみに、築山はサラリーマン時代、新規部署立ち上げのために200人ほど採用面接を行った経験もあるので、売り込む側、売り込まれる側、双方の視点で見ることが出来ます。

選んでもらうためには価値が必要です。そしてその価値は、仕事に活かせるという軸で「他の就活生がほとんど持っていないもの」か「他の就活生より圧倒的に優れているもの」として整理さていることが重要です(=差別化)。そして、それは数字や客観的な指標で説明できるレベルであることが大切です。
それでいくと「粘り強さ」みたいな抽象的な表現や、「サークルのリーダー」という他にも経験者がたくさん居るような経歴は価値が低いことが分かります。
これらを踏まえて、K君の差別化要素を整理するためのマーケティング分析は以下のようになります。使うツールは「SWOT分析」(1枚目)と「3C分析」(2枚目)です。

ちなみに、SWOT分析は「TOWS」の順番で考えないと意味がありませんので気を付けてください。自分(内的要因)よりも顧客や市場(外的要因)から考えるべきですし、リアリスティックに考えるならばマイナス要因から考えるべきです。その方が上述の企業分析とのポリシーにも合致します。

「SWOT分析」という言葉を聞いたことがあるだろうか。事業戦略やマーケティング戦略を考える場合に、自社の強み(Strength)・弱み(Weakne...


こうして身に付けたマーケティング感覚とスキルは、就活だけでなく、これからの人生に大いに役立つでしょう。何よりも、築山自身がサラリーマンを卒業して起業するときにも使っています。参考までに、マーケティング分析を基にした弊社の事業計画書と、起業するときに非常に役立った本のリンクを貼っておきます。ご興味のある方は読んでみてください。

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今後、変化のスピードが加速し混沌とするビジネスの世界において、1つの企業を勤め上げるキャリアは少なくなっていくでしょう。そして、働き手も自分のライフステージによって仕事に対する価値観や優先順位は変化します。

未来に対して、経験を通じて培われていく自分の軸を作りながら、マーケティング感覚を持って自分の提供する価値を柔軟に変化させ続けることの出来る人が、楽しく良い仕事をできる時代になりました。就活はその「デビュー戦」になります。

年末の台湾出張でK君と再会する約束をしました。彼の就活も落ち着いている頃だと思うので、どんな話が聞けるか今から楽しみです。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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