琉球料理と沖縄料理

写真:CafeがらまんじゃくHPより

こんにちは。築山です。

琉球料理と沖縄料理とは、似て非なるものです。前者は戦前の料理で、琉球王朝の宮廷料理と庶民料理とをルーツに持つ食文化で、後者は戦後の料理で、終戦後27年間統治していた米国の影響を受けた食文化です。

 

県民の半数が区別出来ない琉球料理と沖縄料理

琉球料理を「沖縄の食材のみを使った料理」と紹介しているサイトがありますが、これは明らかに間違っています。例えば、琉球料理で多用される「昆布」は沖縄ではなく北海道が名産です。ご存知のように、琉球王国は、中国や日本、東アジア諸国との交易で450年間存在した独立国であり、宮廷料理は交易によって入手した珍しい食材を使った歓待料理という側面があります。「昆布」はそういった食材の一つとして琉球料理に多用されているのです。

実は、下記調査のように「沖縄県民の半数が、琉球料理と沖縄料理の区別がついていない」というショッキングな事実があります。県民の半数がこの状態ですから、本土メディアや観光客も琉球料理と沖縄料理の区別がつかないのは当然とも言えます。

出典:沖縄県「沖縄食文化実態調査」より

県は『沖縄の伝統的な食文化の保存・普及・育成』という補助金事業を行っており、有識者を招いた会議で「沖縄の伝統的な食文化は、戦後の食生活の変化によって失われつつある。だから守らなければならない」という議論がなされていますが、これは一見正しいようで何も考えていない、結論ありきの議論です。

文化というのは、時間という試練を経てもなお、それに意味を見い出し、それを伝える人と受継ぐ人がいてこそ成り立つものです。「古いものは良いもの、大切、だから守るべし」という短略的な発想で事を進めるのは、あまりにも原理主義的・形式主義的であり、こうした考え方こそ文化を衰退させる原因です。

議論すべきは「なぜ、琉球料理は県民の半数が区別がつかないくらい廃れたのか?」という原因分析と「伝統的な食文化を守ることはどんなメリット(実益)があるのか?」という議論です。原因が分かるからこそ、有効な対策が打てるのです。

 

琉球料理が廃れてしまった本当の理由

沖縄だけに限らず、どこの地域でも伝統料理や郷土料理というものは「食生活の変化」や「継承する人の減少」といった影響を受けているものです。しかし『県民の半数が区別がつかないくらい』というレベルになってくると、そこにはよりネガティヴな理由があるはずです。

上述の調査結果には、琉球料理を食べない理由として「調理方法がわからない」とほぼ同率で「作るのが面倒」が挙がっています。つまり「調理方法を知っていても面倒だから作らない人が相当数居る」ということです。琉球料理を知っている方ならよく分かると思いますが、クセの多い亜熱帯固有の食材を調理するには時間がかかります、その大変さは、沖縄を代表する文化人である古波蔵保好氏が著書『料理沖縄物語』の中でも書いている通りです。

いずれにしても、「沖縄料理」と総称されている料理の数々は、根気のいいハタラキモノであった女性たちによって味をつくられ、今に伝えられているとわたしはいいたい(『料理沖縄物語』より)

調理に半日以上も台所に拘束されるような料理は、現代生活には馴染みません。特に、沖縄県の所得は全国最下位なので共働き率が高く、労働時間も長い地域なので、日常的に家で時間をかけて料理できる家庭は限られます。これでは、いくら県が啓蒙活動をしたり、担い手を育成しても、琉球料理の普及は難しいでしょう。

 

琉球料理を継承すべき本当の理由

繰り返しますが「古いものは良いもの、大切、だから守るべし」という短略的な発想では文化の継承は出来ません。琉球料理には、継承されるべきより重要かつ切実な理由があります。

それは、現在の沖縄料理とその食文化が、県民の健康を著しく損なっている要因の一つとなっているからです。

冒頭でも述べたように、沖縄料理は、米国の影響を受けた食文化であり、缶詰を使った料理やファーストフードなど、高い脂質や糖質が特徴で、添加物や化学調味料を多用するものが多くあります。沖縄が日本一の長寿県だったのはもう35年も昔であり、今では全国屈指の肥満県・短命県に成り下がっています。特に男性は、成人の約半数が肥満(BMI値25以上)平均寿命は全国36位です。近年は改善の方向に進んでいますが、それでも肥満率は男女共に全国平均の1.3倍以上です。

沖縄県民の死因を調べてみると、肥満に起因する糖尿病や心疾患、飲酒に起因する肝疾患と腎不全、両方に起因する大腸癌などが、全国平均の2倍〜12倍の数値になっています。

食文化の違いによる健康問題は、下記のように沖縄県民の世代別の平均余命と食文化の関係で見ると明らかです。琉球料理を食べていた70代の平均余命は長く、沖縄料理を食べている40代以下の平均余命は短くなっています。築山が考える、琉球料理を継承すべき本当の理由はここにあります。

 

本当に継承すべきは琉球料理の本質的価値

このように、県民の健康面からも琉球料理の継承は大切ですが、だからと言って、作るのに手間がかかり、県民生活の実情や生活様式に馴染まない琉球料理を真正面からゴリ押しするだけでは普及は無理です。衰退原因と向き合わず、原理主義や形式主義に走る行為こそが文化を衰退させるのです。

琉球料理の本質的価値は、医食同源の思想であり、人々を惹きつける沖縄の4つの普遍性を具現化していることです。築山が何度も読み返している琉球料理本『大琉球料理帖』は、レシピ本でありながら医学書的な側面も持ち合わせています。そこには、食材の旬や効能、忌避すべき食材や料理法が書いてあります。



こうした琉球料理の本質価値は、オーガニック野菜の栽培や販売、有名飲食店を通じたプロモーションやイベント、観光客相手の料理教室、学校給食へのメニュー反映など、様々なシーンや場面に露出や取組みを継続的に行うことで訴求が可能になります。

文化というものは、その本質的な価値を理解する人たちによって、自発的に担われることで継承されます。原理主義や形式主義に走らず、かと言って、小手先の一過性のプロモーションではなく、継続的な仕掛けと効果測定の積み重ねの先にしかありません。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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