こんにちは。築山です。
人材育成を実効性あるものにするには、単なる知識の伝達(わかる)でだけでなく、それらを使った業務の実践を通じて思考と行動が変容する(できる)ことが必須で、そのためには育成される人よりも、育成する人の教育の方が重要であることは、このブログでも何度か述べてきました。
育成する人といえば、組織で言うとマネージャーです。プレーヤーとして、どんなマネージャーの下で働き、どんなアドヴァイスやフィードバックを受けたか?その経験が(良くも悪くも)その後の成長に大きな影響を与えますし、実際、少し前にバズったツイートはそれを証明しています。
野村証券が「支社長まで出世する人材の共通点」を数億円かけて外コンに調査依頼した。調査の結果としては、学歴や世帯年収や親の職種は関係なく「入社して1番最初についた上席が優秀」が共通点だった。スクリーニングのために採用費に投資する以上に受け入れ側の教育に時間かける事が重要という話。
— 木本彰宏 -Akihiro Kimoto (@wombathai) June 14, 2021
人材育成において、とても重要な役割を担うマネージャーですが、彼らの育成に苦労している経営者はとても多く、弊社に依頼される人材育成コンサルティングの殆どもプレーヤーではなくマネージャーに対してです。今回は、マネージャー育成の重要なポイントについて、これまでのコンサルティング経験も交えながら説明します。
マネジメントは、良くも悪くも再生産される
マネジメントの語源は、ラテン語で「馬を飼い馴らすこと」にあたる maneggiare で、そこから意味が転じて「(与えられたものを)上手く扱うこと」になったそうです。この「上手く」という部分がミソで、マネジメントの目的が、単なる管理ではなく成果を出すこととされる理由です。
当然ですが、マネージャーに課せられた予算や期待される成果は、ひとりでは成し得ない規模やレベルになっているはずです。従って、マネージャーとして成功するためには、何よりもプレーヤーである部下を成功させることが必要になります。
部下を成功へと導くためには、その理屈や方法論を理解し、部下のタイプや状況に応じてそれを使う必要があります。ドラッガーがマネジメントを「道具、機能、役割」と定義しているのもこれが理由だと思います。本来、こうしたことは、企業の管理職研修などで学ぶ領域ですが、中小企業では行っていないところも多く、沖縄県で管理職研修などを行っている企業は、わずか15.3%しかありません。
ちゃんとした教育を受けていなければ、過去に自分がついたマネージャーや、受けたマネジメントの記憶を辿りながら我流でやるしかありません。もし、そのマネージャーもちゃんとした教育を受けていなければ……(そしてその可能性は高い)。つまり、マネジメントは良くも悪くも再生産され、やがてそれは企業文化を形成します。
沖縄が他県よりも違法残業が多いという事実からは、上述の事情もあって「悪いマネジメント」が再生産され「悪しき企業文化」に繋がっているのではないか?と危惧されます。このように、マネージャーの育成が難しい理由の一つは、人の育成を超えて企業文化にまで関わることが多いからです。
マネージャーの課題解決と自己変容を阻害する4つの壁
マネージャーの育成が難しいもう一つの理由は、自己変容の難易度がプレーヤーのそれよりも圧倒的に高いことです。自己変容には、単なる知識の伝達だけでなく、それらを使って課題解決する経験が必要なので、時間と手間がかかります。プレーヤーだった時は、自らの変容だけに集中すれば良かったのですが、マネージャーでは、他人(部下)の変容を支援することで組織の課題解決をしなければならないからです。コンサルの現場で見てきた、マネージャーの課題解決と自己変容を阻害する4つの壁について説明します。
第1の壁:見えない
一般的にマネージャーは、優れたプレーヤーが昇格するものですが、不幸にも、それが第1の壁の原因となってしまうことがあります。プレーヤー時代の目線や思考から抜け出せないために、組織や部下の課題に気付けない。つまり「見えない」人が一定数存在するのです。特に、優れたプレーヤーだった人ほどその傾向が強いと感じます。
自らの能力や技術を向上させ成果を出すことでマネージャーに昇格した人は、部下に対して「なぜ、そんなことが難しいのか?」「(自分も出来たのだから)頑張れば出来るはず」と思いがちです。成果を求められるプレッシャーは、それはやがて「自分がやったほうが早いんじゃないか?」へと変わり、その結果、マネージャー自身の疲弊と、部下の成長機会の消滅という悲劇へと繋がります。
人手不足の加速や組織のフラット化によって、プレイングマネージャーが増加している昨今、その傾向ますます強くなっており、成長機会を失った優秀な部下ほど離職して更に人手不足になる…という事態も増加しています。第1の壁には、俯瞰力や共感力といったマネージャーに必須の視点や、自分と部下とは違う人間であること、そんな彼らを成功させることで自分が成功するという、マネージャーとしての基本的なマインドセットが重要です。
第2の壁:向き合えない
第1の壁が乗り越えられないと必然的に第2の壁にぶつかります。プレーヤー時代の「自分はデキる」という自尊心やプライドが、マネージャーとして何も出来ない自分を許せず、課題と向き合わないことで自己防衛を図ろうとします。
一方で、課題は認識しているけれど、不安や不満が原因で、課題と向き合えない、解決したいというモチベーションを持てないマネージャーも同じくらい存在します。不安は、適切なタイミングで適切なフォローを受けられないことなどに起因し、不満は、必要なときにフォローを受けていない、評価や報酬に納得していない…などに起因します。第2の壁は、マネージャー本人だけでなく、企業としてマネージャーを支援・育成する体制の方にも問題があるため、会社として彼等へのフィードバックなどが重要になります。
第3の壁:考えられない
課題を認識し、それと向き合い、解決したいというモチベーションがありながら、それを解決する理論や方法論を知らないために第3の壁を乗り越えられないマネージャーが居ます。この場合には、やはりちゃんとした管理職研修をやることが重要です。
新しい知識や情報を学ぶには、それをインストール出来るだけの精神的・物理的な余裕と余白が必要です。業務の棚卸や、成果から逆算思考したスケジューリングなど、マネージャー自身が自己マネジメントできるようにならなければ、自らの混乱に組織と部下を巻き込んでしまいかねません。
第4の壁:ついてこない
課題を認識し、解決へのモチベーションを持ち、その解法も身につけたのに、いざ動き出して振り返ると誰もついてこない…と悩むマネージャーはたくさん居ます。
当たり前ですが、自分と部下は、立場だけでなく、その性格も特徴も異なりますし、仕事に対する価値観だって異なります。何かを伝えたからといって、皆が同じように受け取り、同じ方向を向いて、同じ情熱を持って仕事をしてくれる訳ではありません。相手の数だけ、伝え方を変えたり、繰り返し伝える必要があります。
他人の成功によって自分が成功するためには、伝達・牽引・支援に関する様々なマネジメントスキルを身につける方法がありますし、その基礎には、自分軸ではなく他人軸で考えるマインドセット、つまり第1の壁を乗り越えていることが前提となります。
成果を出す人を増やすために
4つの壁は順番に乗り越えていく流れがある一方で、相互補完の関係でもあります。例えば、第2の壁の要因の一つである「不安」は、第3の壁と第4の壁である知識や情報を知る(分かる)ことでいくらか解消される部分もありますし、それらを実践し成功体験を積み上げることで第1の壁である課題認識力の精度も向上します。マネージャーの成長に必要な自己変容(できる)は、このようなメカニズムになっています。
こうして整理してみると、マネージャーの育成には時間がかかり、企業全体での支援が必要であること、上述で「マネージャーの問題はその企業(文化)の問題である」と言った意味が理解いただけると思います。「肩書が人を作る」という言葉がありますが、肩書だけを与えて何の支援もしない企業の方便にすべきではありません。
最後に、マネジメントの原理原則や自己マネジメントの具体的なスキル、部下の把握方法や、伝達&プレゼンのテクニック等をまとめたブログである「成果を出す」シリーズをご案内します。5年前に書いたものですが今だに売れ続けています。マネージャーとして悩んでいる人は、これを読んでみてください。また、マネージャーの育成に悩んでいる経営者の方々は、弊社にご相談ください。
築山 大
琉球経営コンサルティング