計画は立てたそばから狂っていく:行動経済学の話

こんにちは。築山です。

年度末を迎えて、来期の計画を考えているビジネスパーソンも多いと思います。今期の振り返り〜課題の洗い出し〜解決策の立案〜目標や予算の設定〜年間スケジュールにプロット〜最後は可視化(分厚い資料!)…みたいな感じでしょうか?築山も、サラリーマン時代には沢山の年度計画を立てました。トータルで数百ページは作ったと思います(自慢するところじゃない)。

しかし、新年度が始まってみると、いきなりいろんなことが起こるんですね。社内外で予想しなかったトラブルは発生し、期待していた人材は突如退職し、計画はズレが生じ始め、理由を上司や経営への説明に追われ、修正する時間も確保出来ず、さらに狂っていく…。

時間をかけ、あらゆる角度から考えに考え抜いた合理的で完璧な年度計画のはずだったのになぜ狂ってしまうのか?『いや、そもそも合理的に考えるからダメなんだよ…』と言っているのがこの本です。

 

「不合理な生き物」である人間の活動を「合理的に考える」から失敗する

この本は「行動経済学」について書かれた本です。「行動経済学」といえばノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』が有名ですが、人間に対する鋭い洞察力をユーモア溢れる文章で書いた『予想どおりに不合理』の方が、築山はしっくりきました。
伝統的な経済学が想定する人間というのは「事前に完全な情報と計算能力を有し、常に自己の満足度を最大化させる行動を選択出来る合理的な存在」(だから「神の見えざる手」が機能する!)というものですが、実際の人間は真逆ですし(少なくとも築山はそうです)現代の経済活動にもその歪みのようなものが高い頻度で散見されています。
「行動経済学」は、そうした伝統的経済学とは真逆のテーゼ、つまり人間の心理面とその行動特性から経済を考える学問です。この本に書かれた「人間の不合理さ」は身につまされる人も多いんじゃないでしょうか?

1. 意思決定のバイアス
人間の意思決定は、論理的思考や確率計算に基づく絶対的な判断ではなく下記のような要素に大きく影響を受ける
・相対的な判断(常に比較の罠、無料!の罠にハマる)
・代表性のあるものに依存する
・想起するものに引きずられる
・事前の情報に影響を受ける=アンカリンク

2. 社会的規範と市場的規範の「食い合わせ」の悪さ
社会的インセンティヴに拠った行為に、金銭的インセンティヴを与えた途端に関係がギスギスする(貴方が食事に招待され、お土産の代わりに「相応の金銭」を渡したら?)

3. 興奮状態に陥った状態での意思決定のマズさ
バーゲン会場、タイムセール、飲酒による酩酊、性的興奮状態…

4. 現在バイアス
将来のことは合理的に意思決定出来ても、今この瞬間にそれが出来ない。「先のことが決められない」のは「今に惑わされている」から。このバイアスから解放されるには「予め選択肢を消しておく」ことだが、それはかなり難しい「扉は開けておきたい」もの

5. 所有効果・損切りの難しさ
自分の持ってるものを過大評価する。一度手にしたらそれを手放したくなくなってしまう。苦労して入手したものなら尚更。その呪縛効果は大きく、それによる経済的損失が出ていたとしても、なかなか意思決定の変更はされない

6. 思い込みの力
我々の味覚でさえ、事前のちょっとした情報で大きく影響を受けてしまう(予測の力)。高いもの=良いものだと思い込みやすい(価格の力)、同じ価格や質でも「それっぽい場」であればより高い金額を払ってしまう(場の力)など

7. 信用・不正直・品性
コモンズの悲劇囚人のジレンマに代表されるように、論理的には、互いが完全に信頼し合う状態こそが、経済的に最も無駄がなく皆が利益を得ることが出来るが、現実には、必ず誰かが過剰に利益を追及することにより、その経済圏と社会がどんどん貧しくなっていくという皮肉な状態にある

結局のところ、こうした人間の意思決定における「クセ」というか「法則」みたいなものを理解した上で行動することで、より良い対処法やより良い職場環境や社会を作れるのだと思います。

そういえば昔、誰かが言ってましたね…「人間だもの」と。

 

ガチガチの計画や指標が組織を振り回す

ビジネスや経営の世界においても同様に考えるべきでしょう。「人々は、なぜ働くのか?」という根本的なことから考える必要があります。

もし、自社で働く人たちが本当に合理的な(=自己利益の最大化だけを追求する)存在なのであれば、それに沿ってガチガチの計画や指標を設定してアメとムチ的な制度を整えれば、彼等は黙って働き、計画通りに事は進む筈ですし「楽しみ」や「やりがい」など抽象的な(=測定不可能な・非合理的な)ものは一切考えなくて良いはずです。

それどころか、自分が計画や目標を達成するために、その後の結果を「合理的に考えれば」絶対に採らないような行為(時には犯罪行為)をしてしまうこともあります。そして経営者はショックを受けるのです「一体どうしたんだ?普通に考えればダメなことぐらい分かるだろう…」と。


 

ビジネスから人の判断を除くのではなく、人の判断力を向上させる

計画=解決策ではありません。重要なのは計画そのものではなくそれを立てる過程で、市場や社内外の状況を正確に把握し、やるべきことや優先順位を考える行為にこそ意味があるのです。そこを大切にするからこそ、刻々と変化する状況に適宜対応できるようになります。当たり前ですが、機械は絶対にミスをしません。それを使う人間がミスをするのです。

 

計画や指標といったものは、より正しい判断と成果を出すための手段であって目的ではありません。もっと従業員や、顧客といった人間に対する深い洞察力を持って仕事をしたいですね。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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