その仕事って意味あるんですか?にどう答えるか:『センスメイキング』を読んで

こんにちは。築山です。

以前のブログで紹介した『ファクトフルネス』の中にあった「数字を見なければ世界を知ることはできないが、数字だけでは世界を理解することはできない」という一節がずっと心に残っていました。

大切なのは「数字を見て正しく意味付けすること」であり「それに基づいた思考と行動を継続すること」だと。この「意味付け=センスメイキング」こそが重要なポイントになってくると思い、この本でさらに補強することにしました。


本書の主張は、センスメイキングに必要な人文科学がSTEM(Sciense 化学、Technology 技術、Engineering 工学、Mathematics 数学)よりも重要であるというもので、その裏付けの一つとして、全米の新卒者給与の平均は理系出身者が高いが、中途採用の高年収者や目覚ましい成果を出した企業のCEOには文系出身者が多いという事実を述べています。

本書の著者は、アディダスやサムスン、インテルやレゴといった世界的企業のイノベーション戦略を手がけるコンサルティング会社『ReDアソシエイツ』の創業者です。もちろん、単純に「理系と文系、どちらが優れているか?」という話ではありませんし、安易な「教養主義」を掲げる本でもありません。副題にもある通り「本当に重要なものを見極める力」としての人文科学を、具体例を挙げながら語っています。

 

文字は読めるが、文章を理解できない人
話すことはできるが、会話ができない人

最近、コンサルの現場でコミュニケーションに悩んでいる方々から聞く言葉です。この原因は例えば「コミュニケーション手段が、主として文章(テキスト)の世代と、ヴァーヴァル(口述)の世代との間で生じる違い」ということで説明出来ます。

前者は、相手から送られてPCやスマホの画面に映された文字のみで理解をしなければならない一方で、後者は、話された言葉だけでなく、話し手の表情や周囲の雰囲気などを合わせて理解することが出来ます。(もちろんこれは、世代間だけの問題だけでなく、そもそも「相手の理解」を気にしながらコミュニケートしない人達の性格という要素などもあります。)

つまり、他にも情報があること、それらから類推したり総合的に理解することで、より現実に即した、納得感のある判断を行うことが出来る…。これが、本書で述べられているセンスメイキングの原則の一つである ②「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を だと築山は解釈しています。

センスメイキングの五原則
①「個人」ではなく「文化」を
②「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を
③「動物園」ではなく「サバンナ」を
④「生産」ではなく「創造性」を
⑤「GPS」ではなく「北極星」を

 

想像力の欠如によって、観光客が海にこぼれ落ちる…!?

ハワイと沖縄の観光業を比較した、沖縄の某地銀シンクタンクのレポートに「一日当たりの観光客数(年間観光客数×平均滞在日数 ÷ 365日)に着目すると、沖縄はハワイに比べ、まだ観光客の受け入れ余地(キャパシティー)があることがわかる…」という文章がありました。このレポートの要旨をまとめると以下のような「提言」になっています。

・観光客数はハワイと同規模なのに観光消費額は1/3
・1日あたり消費額はハワイと同じで滞在日数が1/3
・沖縄の海外観光客はアジア人が多く滞在日数を伸ばすのは難易度が高い
・だったら観光客をもっと増やそう
・1日あたりの観光客数で見れば増やせる余地あり
・数字上では今の2.6倍まで増やせばハワイと同規模
・その為に港と空港を拡大 北部にもう一つ空港を作る
・増えた観光客は民間とOCVBで上手くさばいてね

ハワイと沖縄の観光客数は同規模ですが、沖縄の島面積はハワイの14%ほどしかありません。現時点で1㎢あたりの観光客密度を比べると、ハワイの571人に対して沖縄は約7倍の4,119人。このレポートによると「さらに2.6倍に増やす(余地がある)」わけですから1㎢あたりの観光客密度は1万人を超えます。実際には、そこまで増やしたら観光客が海にこぼれ落ちますね(笑)

残念ながら、このレポートで語られている内容は、受け入れ側の現実を理解していない人間が考えた、単なる数字遊びの感は否めません。センスメイキングの欠如は、例えば、このようにして顕在化するのです。

 

意味付けの重要性:行動や判断の拠り所にすれば「教養」となり、飲み屋で話すだけなら「雑学」で終わる

繰り返しになりますが「数字を見なければ世界を知ることはできないが、数字だけでは世界を理解することはできない」のです。センスメイキングに必要な人文科学の要素は「数字を正しく読み解く方法」であり、文脈や関係性を理解して「意味付け」をすることです。

昨今、人文社会科学系の学問が「役に立たないもの」として日本の大学での風当たりが厳しくなっているようです。「役に立たないもの = 実態のないもの、経済的効果の見えにくいもの(カネにならないもの)」という風潮だそうです。

しかし、現状を改善するのは、数字(ファクト)ではなく人間の行動です。その人間を理解するための学問、つまり哲学や社会学といった人文科学をもっと実際の行動や判断に生かすべきです。これらはプラグマティックに使えば「教養」となりますが、断片だけを飲み屋で話すだけなら単なる「雑学」で終わってしまい、本当に「役に立たないもの」に成り下がってしまいます…。

「その仕事って意味あるんですか?」と部下に言われたらどう答えますか?

「ゴチャゴチャ言わずにいいからやれ!」は論外ですし「いつか君にも分かるから…」もダメです。そもそも、仕事や働く意味なんて人それぞれですから、それぞれの状況や背景に思いを巡らせた上でちゃんと「センスメイキング=意味付け」をしてあげる必要があります。本書はその上で重要な示唆を与ええてくれる良書です。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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