利益確保のために非正規を増やして利益が減る…という皮肉

こんにちは。築山です。

沖縄県は日本で最も経済成長をしている地域です。日本有数の人口増加県であり(日本で唯一人口が「自然増加」している県です)、ハワイ並みの客数がある観光業の収入は増え続け、公共事業と民間投資による建設業の好調は全国一の地価上昇率にも繋がっています。沖縄の経済成長率は全国平均の約2倍です。

にもかかわらず、沖縄の県民所得は依然として全国最下位であり、これが深刻な貧困問題の要因になっていることは周知の事実です。経済成長の恩恵を県民の多くが享受できていないというイビツな経済や労働市場の構造があります。今や、沖縄県民自身が「基地問題よりも先に子どもの貧困問題を解決すべき」だと思っているのです。

 

非正規雇用の多さを語るときの『産業構造が違うから説』の間違い

沖縄の低所得の要因が語られる時に、県や地元マスコミ等がよく使うのが「非正規雇用の多さ」であり、その原因は「主だった製造業がなく、非正規雇用率が高くて観光に依存するサービス業の割合が高い」という『産業構造が違うから説』です。

この「話法」というか現状認識は間違ってます。

確かに沖縄の産業構造は、サービス業(第3次産業)雇用者の割合は全国平均より10%ほど高いですが、似たような産業構造の地域と比べても非正規雇用率の高さは突出しています。

下の図を見れば分かりますが、沖縄の非正規雇用率を全国と比較すると、第3次産業よりも第1次産業や第2次産業の方が高くなっています。

…というか、沖縄県はほとんどの産業において非正規雇用率が高いのです。

その中には安定雇用の代名詞であるはずの公務員も含まれており、非正規雇用率は全国平均の約1.6倍。『ハローワーク職員の7割が非正規』というブラックジョークみたいなニュースもあります。

つまり、沖縄の非正規雇用率が高いのは『産業構造が違うから』ではなく『そもそも企業と行政が非正規の雇用を増やしているから』なのです。

 

 

問うべきは『雇用の質』よりも『労働の質』

日本一非正規雇率が高く、日本一所得が低い沖縄ですから、所得を上げるためには『雇用の質』の改善、つまり「正社員を増やせ」となりますが、そんな単純な話ではありません。

下のグラフを見れば分かりますが「所得の大小は正規雇用の比率ではなく労働生産性で決まる」からです。

労働生産売上=付加価値売上(粗利)÷労働量(従業員数、労働時間)

労働生産性というのは「投入した労働量(人数や時間)が生み出した付加価値売上」です。したがって労働生産を上げるには、付加価値売上を上げるか、労働量を減らすか、のいずれかを行うしかありません。

正規雇用を増やすということは、非正規雇用よりも投入する労働量(時間)を上げることですから、それ以上に付加価値売上を上げなければ労働生産性は下がります。正規雇用の増加は労働生産性の増加が前提となります。

つまり、雇用の質(正規雇用率)を決めるのは労働の質(労働生産性)なのです。県は、企業にただ「正社員を増やせ」というのではなく、正社員を増やせるように企業の生産性を上げる指導や仕掛けを行う必要があります。

 

 

情報通信業:「企業誘致による産業振興と雇用創出」の実態と結果

県は、観光に次ぐ産業の柱として情報通信業(IT産業)を掲げて県外企業の誘致などに力を入れてきましたが、その内訳はソフトウェア開発、コールセンターなどの下請け業務が殆どです。
彼等が言う「企業誘致による産業振興と雇用創出」の実態は「内地より安い賃金での労働力提供」なのです。

その結果、沖縄県の情報通信業の非正規雇用率は全国平均の2倍もあり、労働生産売上は全国平均の半分程度しかありません。
繰り返しになりますが、労働の質を上げなければ雇用の質は上がらないのです。

 

 

人手不足の脅威:利益確保のために非正規を増やして利益が減る…という皮肉

そして、ここへきて人手不足が深刻化してきました。そもそも沖縄では2012年に生産年齢人口が減少に転じたのと同時に求人倍率と最低賃金の上昇と失業率の改善は始まっていましたが、その後に起こった円安と中国人観光客へのビザ緩和のブーストによって観光需要が激増し、緩やかに良化するはずだった雇用環境は一気に人手不足へと振り切れてしまいました。

人手不足は企業に様々な影響を与えますが、最も直接的なものは人件費の急増による企業利益の圧迫です。

これまで述べてきたように沖縄企業の非正規率の高さの背景には、財務基盤が脆弱で個人&親族経営による中小企業が多く、非正規雇用を「雇用の調整弁」と考える向きがあること、それを指導するべき機関(公務員)さえも非正規雇用率が高いことにあります。

この状況を放置し、労働の質(労働生産性)を上げることに本腰を入れなかったツケは、人手不足と相まって「利益確保のために非正規を増やすと利益が減る」という皮肉な状況を生み出しつつあります。沖縄の産業は、非正規率を増やすほど労働生産性を低下させています。

つまり「賃金の上昇→利益の減少→非正規増で補う→生産性低下→利益の減少→非正規増で補う…」の無限ループによる消耗戦です。

 

労働の質(生産性)を上げる方法

この状況は働き手にも良くない影響を及ぼします。いくら「今の賃金」が高くても、不安定な雇用状況下では自身のスキルを磨くことや、中長期でのキャリアを考えることは難しくなります。こうしたスキル不足で経験値の浅い労働者が増えることはさらなる生産性低下の温床となります。

人手不足の本質は「人数不足」ではなく「人材不足」なのです。


人材不足を解消するには、職場の生産性増減のカギを握る管理職を育成するか、それなりの給与を払ってスペックやマネジメント力のある人材を雇うかです。

弊社の生産性向上を通じて人材育成を行うスタイルは、4年前の弊社の創業時に今の沖縄経済と企業の状況を予測して立ち上げました。今では主力のコンサルティングサービスとなっています。単発のセミナーや勉強会をやるのではなく、それらを御社の現場と仕事を通じて社員の成長と生産性向上をお手伝いするスタイルです。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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