人的資本投資に関する経営者の誤解と不安が会社の成長を阻害する

こんにちは、築山です。

経営者というのは総じてケチ(であるべき)ですが、職業柄、上手くいってる経営者とそうでない経営者の違いは「ケチの質」を見れば大抵分かります。

「ケチの質」とは、経費に対する考え方です。無駄な経費を減らすという意味での両者のケチは変わりませんが、必要な領域にお金(経費)をかけるという意味で大きく違います。上手くいってない経営者の多くは、目に見えて効果のないことにはお金をかけない、短期的なリターンばかりを求める傾向にあります。特に、個人と会社のカネの区別が曖昧な地方のオーナー企業は、自分の懐がいたむ危険のある「すぐに売上の上がらないこと」には手を出したがりません。上手くいってない経営者は、その意味でもケチなのです。そして、これが最も端的に現れるのが人的資本投資(人材育成)の領域です。

 

人的資本投資に関する経営者の露骨過ぎる本音…

人的資本投資の決裁権保有者を対象にした調査の「人的資本投資が進んでいない理由」を見ると、そうした「経営者の本音」が露骨(過ぎるほど)に現れています。

◯ 費用対効果が見えないから:33.7%
◯ スキルを身に付けた社員の外部流出の恐れがあるから:19.9%
◯ ビジネスに還元される保証がないから:18.1%

また、「AI・DX人材の育成に関する投資意向」について、「投資したい」と答えた経営者・役員は35.7%で、経営者・役員以外の層のわずか6割程度。明確に「投資したくない」と答えた経営者・役員は23.5%で、経営者・役員以外の層のなんと2倍以上です。

 

人的資本投資に関する経営者の誤解と不安

勘のいい人ならお分かりかと思いますが、冒頭の「ケチの質」の話は生産性の話に繋がっています。生産性 = 付加価値 ÷ 投入コスト ですから、経費削減ばかりをやって、付加価値創出や売上増に必要な経費をかけないと生産性は頭打ちになり、会社の成長は阻害されます。

これは、様々なデータによっても裏付けられています。日本のGDPに占める企業の能力開発費は0.1%で、アメリカの20分の1、イタリアの10分の1です。日本より解雇が容易なアメリカの方が日本よりも能力開発費をかけている…という事実は皮肉です。日本の能力開発費はもっぱら新入社員や若手社員にかけられているのに対して、米国や海外では中堅社員にも同じくらい投資されており、それがこの数字差に現れています。

そして。日本の就業者1人あたり労働生産性は、アメリカの6割、イタリアの7割で、OECD加盟35ヶ国中20位。結果として、能力開発比率と労働生産性との間には強い相関が見られます。

また、沖縄の労働生産売上は全国平均の7割程度しかありませんが、人材育成に関して、何らかの研修を行なっている沖縄企業の割合がわずか10.7%、自己学習や資格取得のために補助を支給している割合も22.9%しかないという事実()を見れば、労働生産性の低さは当然の結果とも言えます。

このように、人的資本投資が労働生産性の向上に寄与することは明らかであり、上述にある経営者の『費用対効果が見えない』『ビジネスに還元される保証がない』は誤解、若しくは短期的な視野で見ることの弊害であることが分かります。

さらに、『スキルを身に付けた社員の外部流出の恐れ』という経営者の不安についても、スキルやキャリアに置いて自分の成長を実感できる「キャリア安全性」が低い若手正社員は、ワークエンゲージメントも低い傾向にあるという調査結果()を見れば、むしろ人材育成をしない方が流出する危険が高く、これもまた経営者の勘違いであることが分かります。確かに、人材流出を食い止めることは難しいかもしれませんが、人的資本投資をしっかりやっている会社は、それ故に入ってくる人材も多いのです。今や「会社が人を育てる」ではなく「人が会社を使って成長する」時代であることを認識すべきです。

 

人的資本投資の効果を上げるために

こうして見てきたように、人的資本投資は、会社の成長に寄与することは明らかですが、そのために必要なのは、長期的な視点とお金をかけられる余裕です。とはいえ、それらをいきなり用意するのは難しいものです。

そこで、冒頭に述べた「ケチの質」が重要になります。無駄な経費や時間を削って人的資本投資のための貯金にまわす。そして、人に投資した時間やお金を確実なものにするため(無駄にしないため)、単なる知識や情報の伝達ではなく、実践とフィードバックを通じて思考や行動の変容に繋がる人材育成のプログラムを組織全体で構築します。弊社の人材育成に関するコンサルティングは、そこから始めます。興味のある方はご相談ください。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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