AI時代の採用と育成は「会社が育てる」から「会社を利用して成長する」へ

こんにちは。築山です。

今年もまた、沖縄ワタベウェディング株式会社様の入社3年目プロジェクトで講義を行いました。日本は、生産年齢人口の減少という構造的な人手不足の時代を迎えているにも関わらず、GDPに占める企業の能力開発費は0.1%でアメリカの20分の1、沖縄でも何らかの人材育成を行なっている企業の割合はわずが15%、新卒者の3年以内離職率は全国平均の1.3倍もあります。そんな中で、沖縄ワタベウェディング様は、新卒や入社3年目だけでなく、キャリアのさまざまな段階で研修をしっかり行なって人材育成をしている貴重な企業であり、沖縄の就職志望先ランキングにおいて、毎年上位にランクインしているのも納得です。

そんな、沖縄ワタベウェディング株式会社様との仕事を通じて、AI登場などの与件も踏まえた上で、これからの新卒採用と若手社員の育成について考えたことを書いてみます。

 

採用前:企業選びのポイントは「やりたい仕事・働きがい」よりも「安定・給与」へ

マイナビが毎年調査発表している『大学生就職意識調査』を見ると、「企業を選ぶポイント」の上位4項目の並びが、コロナ禍を境に大きく変わりました。具体的には「やりたい仕事 / 職種ができる」「働きがいがある」が低下し、「安定している」「給料が良い」が上昇しています。「安定している」を選ぶポイントに選んだ学生は半数近くで、「これから伸びそう」の5倍もあります。また、「行きたくない企業」の上位5項目については、「雰囲気が暗い」「休日・休暇がとれない」が低下し、「ノルマがきつい」「転勤が多い」「残業が多い」が上昇しています。

コロナ禍による経済&生活不安、企業の採用活動停滞や働き方の変化などを目の当たりにして、保守安定化とプライベート重視の志向が如実に現れています。

 

採用後:ゆるい職場に焦る若手社員たち

しかし、入社すると心持ちは一変します。給料もそこそこで、上司や先輩からの叱責や、きついノルマや残業も殆どない安定した仕事を手に入れたはずなのに不安が拭えないのです。例えば、「このまま今の会社で仕事を続けていると、別の会社や市場で通用しなくなるのではないか?」「学生時代の友達と比べて、スキルや能力の差をつけられていないか?」というものです。

こうした彼等の不安の原因は「成長実感の欠如」にあります。成長実感は、必要なスキルを身につけ、それを使って難易度の高い仕事に挑戦して成果を出すことで得られますが、こうした「成長に必要な負荷」は、皮肉にも、彼等が求めていた企業や職場ほど体験する機会が少ないのです実際、成長実感を得られない職場を「ゆるい職場」だと感じる、成長意欲のある若手社員ほど、2〜3年以内での転職意向が高くなっている調査結果があります。

 

育成者の視点:VUCA時代の若手社員育成

不確実性が高く将来の予測が困難な、いわゆるVUCA時代にあっては、製品や市場のライフサイクルはどんどん短くなっており、企業の安定経営も難しくなっています。むしろ、現在の「安定した企業」の定義は、変化が少なく落ち着いた企業ではなく、絶えず変化するための財務的余裕と組織文化を持った企業と言えるでしょう。

VUCA時代の企業は、若手社員にキャリアパスやキャリアプランは用意できないし、上司や先輩は彼等のロールモデルにはなり得ないと自覚するべきであり、その上で、彼等が成長実感を得られる機会をどれだけ用意できるか、そのための適切な業務負荷を与えられるか=生産性を軸にした働き方を教えられるか、が重要になります。

つまり、人は「会社が育てる」のではなく「会社を利用して成長する」のです。Google社の「20%ルール」はその象徴でしょう。そして、そうした会社は「せっかく育てた社員が転職すること」を心配するのではなく、むしろ「そうした話を聞いて、さらに優秀な人が集まってくる」サイクルにあります。

 

働き手の視点:AI時代の仕事や労働市場

一方で、働く側も、人手不足を背景に安易な転職ばかりを繰り返すのではなく、それなりの戦略を持ってキャリアパスやキャリアプランを考えないと、気付いたときには自分の仕事がAIに取って代わられていた…なんてことにもなり得ません。安宅和人さんの著書によれば「AI = 計算機 × アルゴリズム × データ」と定義されます。AIによって仕事や労働市場がどう変化するかを想像してみましょう。

AI時代になくなる(かもしれない)仕事
◯ 調査、文章作成(録取・添削・校正)
◯ 窓口、清算、事務全般
◯ 運転、操縦
◯ 簡単な創作
AI時代に残る(かもしれない)仕事
◯ ホスピタリティ産業(エンタメ・高級接客)
◯ マネジメント:課題発見 / 課題設定
◯ マネジメント:人を率いる / 能力を引き出す
◯ 極端 / 先端研究や開発( ≠ 平均値・中央値)

現時点でのスペックや進化の速度を見る限り、AIのアウトプットは、中央値・平均値的なものであるため「真ん中から下の仕事」はリプレイスされます。特に、定型・反復業務などのオペレーション的な事務仕事の多くはAIにリプレイスされる可能性が高いです。おそらく、ブルーカラーよりも、ホワイトカラーの仕事の方が先にリプレイスされるのではないでしょうか?

一方で、非定型・非反復業務を内容とする仕事は残るでしょう。労働環境の変化は加速しますが生産性は劇的に向上するので、浮いた時間で新たな付加価値を生み出せる人材がさらに稼げるようになります。また、AIによって便利になったことで思考停止になりがちな社会において、問題意識を持ち続けて仕事をしたり、人々の心を動かすような仕事をする人材は重用されるでしょう。

「真ん中から下がなくなる」という意味では、選択肢という横の広がりは増えても、体験の質という縦の広がりは上下二極化するでしょう。例えば、飲食業だと、効率よく空腹を満たすためのファーストフード的店舗が8割と、空腹だけでなく心も満たす飲食体験を楽しめる1割の高級店、小売業では、購買の利便性を追求したコンビニやECが9割と、購買体験そのものを楽しむ1割の高級店や専門店…といった具合です。

産業革命やIT革命のように、テクノロジーが大きく進歩した時代でも「人間にしか出来ない仕事」は残ったり、新たに生まれました。企業経営も同様です。カネは有限、モノは経年劣化しますが、ヒトだけが学ぶことで付加価値を生み続けることができます。とにかく、ヒトを育成し、同時に学び続けましょう。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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