沖縄の生産性向上のためには「カネの分配」ではなく「カネを稼ぐ」視点で

こんにちは。築山です。

1人あたり県民所得が全国最下位を続ける沖縄ですが、以前からこのブログでも書いてきたように、その主たる原因は、多くの産業や企業の労働生産性が低いことにあります。こうした状況を改善すべく、さまざまな機関から、さまざま分析や提言がなされています。内閣府沖縄総合事務局が、観光産業に次ぐ「今後の成長可能性が高い付加価値業種・業態」の一つとして選定しているのが「半導体関連産業」です

これを読むと、主な選定根拠として挙げられているのが、①世界的な半導体需要の増加と日本国内での生産増加、②主な輸出先である東アジアにおける沖縄の地理的優位性、③沖縄の気候:寒暖差の少なさから電気代が本土より安くなる、などです(P.48~49)。これらについて、ファクトを確認しつつ沖縄での半導体製造について考えてみます。

 

①市場が拡大すれば、競合も多くなる

世界での需要増と地政学的な変化を背景に、日本の半導体出荷額は2021年に急増し前年1.3倍の70億ドル弱となりました。世界シェアNo.1のTSMC(台湾)の熊本工場建設と、それに伴う地元経済の変化についてはご存知の方も多いと思います。しかし、市場が拡大するとそれだけ競合も多くなるのは誰でも分かることです。熊本県を筆頭に、九州地方には国内外の主要メーカーの工場が10箇所ほどあり、国内シェアの約4割を占めています。つまり、沖縄が半導体産業を成長させるには、九州地方が最大の競合地域になることを意味しています。

 

②経済的な意味での沖縄の「地理的優位性」は低下している

これについては、10年前から先行して行っている「沖縄国際物流ハブ事業」の実績を見ると、航空機や船舶の燃費向上と物流効率の向上などによる中継機会の減少、競合する国内の空港や港湾、そもそも輸出するモノが少ない等の理由によって、外貨取扱量は航空便はコロナ禍以前の2018年から減少、船舶便は横這いが続き、当初の目標値を大きく下回っており、事業としてほぼ破綻しています。


さらに、リーディング産業である観光業においても、海外客増加のカギを握る直行便はなかなか増えません。以前、関係者と話したことがありますが「相手国からは、沖縄へ入る旅行者や貨物の量に対して、沖縄から出る量が釣り合わないので旨みが少ないという評価」だそうです。確かに、東アジアの中央に位置する沖縄ですが、経済的な意味での「地理的優位性」は低下しています。この「地理的優位性」という言葉は、半導体製造だけでなく沖縄振興を語る際の「話法」となっているふしがあるので再考が必要だと思います。

 

③半導体製造に必須の水と電気が高い

確かに、寒暖差は少ないので電気代の増減は小さいのですが、上述の提言がされた令和3年以降から、電気代はどんどん値上がりして全国で最も高くなり、その金額は最大の競合地域である九州の約2倍です。そもそもの料金にこれだけの差があるので、沖縄の気候や寒暖差に意味がないのか明らかです。また、水道代も九州と比べて特に安いわけではありません。

 

担当者・現場レベルでの調査分析

出来ない理由だけを並べていては怒られますので、それでもなお、やるべき根拠や方法がないかを考えるために、上述の提言と選定がされた2年後に担当者・現場レベルが作成した調査書を見つけたので読んでみました。しかし、具体的な課題分析と、実際に沖縄で半導体関連部品を製造している企業への聞き取り調査や彼等との検討会議によって、上述の成長根拠が甘いことがさらに浮き彫りになっています。

沖縄で半導体関連の部品を製造する企業へのヒアリング・検討会議より
◯ かつては、県による汎用性の高い物流費の補助制度があったが、現在はない
◯ OISTには様々な研究機関があるが、地域産業との連携の話は全く聞かない
◯ ワーケーションは、ソフトウェア系や上流設計なら可能。製造業では人材を固定した方が良い
◯ 綺麗な水が大量に入手できない点や塩害などを考慮すると、沖縄で半導体の製造はほぼ不可能。設計やR&Dなどに特化すべき
◯ R&Dはコストセンターになるので何らかの税制優遇があるとありがたい
◯ R&Dと製造では人材が全く異なる。前者には、高い報酬や生活の質・楽しさなどが必要
◯ 沖縄へ進出する際に、福岡の給与水準で採用する予定だったが、沖縄の賃金を無視した形で採用するのは地元経済に悪影響をもたらしうると考え、沖縄の水準に合わせた
◯ 県外出身者に厳しい面があり、オフィス移転の際も契約が難しいなど課題があった
◯ 誘致担当者がすぐに異動になるため、責任を持って対応して貰うことが困難

例えば、半導体製造企業の進出先として沖縄を選んでもらう場合、最大の競合地域である九州地方に優っている差別化要因は何なのか?九州地方と競うのではなく「何らかの連携」を模索する場合、物流費が製造コストに上乗せされる沖縄が担える部門はどこなのか?

この調査分析書のまとめでは、弱みや脅威のうち「人材流出」と「サプライチェーン」の克服が重要であること。両者には因果性のジレンマがあること、つまり、サプライチェーンを充実させるためには人材確保が重要となるが、サプライチェーン(市場)が貧弱であるが故に人材が県外へと流出する状況を改善すること。そして「沖縄県は半導体の製造拠点として向いていないため、まずは大規模なリソースを必要としない分野(装置、R&D、設計等)での産業集積を目指すべきである」と明確に書いています(P.21)。しかし、これを実現するには、上述ヒアリングで半導体関連の部品製造企業が指摘したいくつかの課題を克服する必要があります。築山も、R&Dや設計をする高度プロフェッショナル人材に来てもらうためには、彼等の能力と人材市場に見合った報酬に加えてQOLの高い生活を出来る環境が重要になることは、以前のブログにも書いています。

 

沖縄の生産性向上のためには「カネの分配」ではなく「カネを稼ぐ」視点で

当たり前ですが、担当者や現場レベルはよく分かっています。普通であれば、市場が伸びてるから、東アジアの中心だから、という状況証拠のような根拠(しかし、よく調べると根拠になっていない)だけでカネを投下することはあり得ません。決まったことだから、と言うのも論外です。民間企業ではなく、国民の血税を使う補助事業なら尚更です。

上述の「国際物流ハブ事業」の失敗から何を学ぶのか? 25年前の『マルチメディアアイランド構想』は、税制優遇と安価な労働力を目当ての本土企業の進出によって、ソフト開発の下請けやBPOを中心とした労働生産性が全国平均の半分しかないIT産業を生み出し、県全体の労働労働生産性を押し上げることはありませんでした

そもそも、沖縄の産業総生産の約4割が政策と補助金を原動力とした財政依存型産業なので、多くの経営者にとって付加価値を上げることに合理性が作用しにくい地域なのです。「予算があるから」「予算を引っ張ってくる」という思考と、そのバラ撒きで人や企業を誘致するという政策を止め、官民ファンド等の投資による中長期的な視野で戦略的に取り組む方法に変えるべきでしょう(カネは貰うのではなく利子をつけて返す)。そして、その評価方法はイベント開催や出展といった「履歴」ではなく「投資対効果」になります。地域や都市が経済的に上昇するメカニズムを理解し、沖縄の生産性向上を向上させるためには「カネの分配」ではなく「カネを稼ぐ」という視点が必要なのです。


 

築山も、沖縄を語るこうした「話法」によって思考停止にならず、素朴な疑問と、健全な猜疑心と、稼ぐ視点をもって、沖縄企業の支援をしていきたいと思います。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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