こんにちは。築山です。
このブログでは折に触れて述べてきましたが、沖縄の県民所得が全国ワーストを続ける原因は、小さな島嶼地域であることや、建設業や公務などの財政依存型産業がGDPの4割を占めており企業や経営者に付加価値創出と市場競争をする経済的合理性が醸成され難いこと、その結果としてほとんどの産業の労働生産性が全国平均以下であるクローズドな経済圏が形成されたこと、対外的競争力が低いために稼いだ外貨の倍額が県外へと漏出する域内経済循環の弱いザル経済であることなどが挙げられます。
こうした沖縄の県民所得を上げるヒントを得るべく『年収は「住むとろ」で決まる』を読みました。
「浮かぶ都市」の高卒者は「沈む都市」の大卒者よりも年収が高い
邦題のインパクトが強いため(原題は全く違う)年収煽り本やライフハック系の本と勘違いされそうですが、副題が示す通り、本書は雇用者所得(年収)の増減がどのように形成されていくのかを米国をサンプルに労働経済学や都市経済学の観点から書かれた経済学の本です。本書に書かれていることを要約すると次のようになります。
1. 製造業は資本集約型から知識集約型へ:イノベーション産業の台頭
先進国の製造業は、IT化とグローバル化によって製造部門を賃金の安い国外へと移転させ、本国には研究開発やデザイン、マーケティング部門だけを残すことで労働生産性や利益率を向上させた。前回のブログにも書いたように、時価総額世界一の企業は製造業である米国のアップル社だが、その工場は米国ではなく中国にあり、同社の営業利益率は30%(日本の製造業の平均は4%)。これからの製造業は、物理的な製品を作る業態からイノベーションや知識を生み出す業態へと変化する。問題は、イノベーション部門を担う高技能労働者の需要は増えるが低技能労働者の需要は減ってしまうこと。そして後者の方が圧倒的に多いこと。
2. イノベーション人材が移住してきても雇用は奪われず、むしろ増える:海面が上昇すれば、全てのボートが高く押し上げられる
ある都市にハイテク企業の研究開発部門やバイオ企業、ライフサイエンス企業などのイノベーション産業の雇用が増えると、同じ都市の地域サービスの雇用もまた増える。イノベーション産業の雇用誘発効果は製造業の三倍で、労働生産性と賃金の増加率も高い。その理由として、イノベーション産業が製造業より地域の企業向けサービスを利用すること、イノベーション産業で働く高技能労働者は地域サービスの人材とは技能レベルが異なり競合関係になく、所得も高いので地域サービスの利用が増えることなどが挙げられる。米国だけでなく日本でもサービス業の雇用者数は全体の半数以上だが、経済発展の牽引役となり得るのはサービス業ではなく1割以下のイノベーション産業とその人材。ちなみに、昔はこの役割を製造業(雇用者数は全体の約3割)が担っていた。
3. 給与は学歴より住所で決まる:浮かぶ都市と沈む都市
米国では、上述のようなイノベーション産業のレバレッジ効果によって経済発展した「浮かぶ都市」とそうした都市に人口が流出する「沈む都市」との賃金格差が決定的レベルにまで開いた。具体的には、上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い。イノベーション産業に勤める高技能労働者とそれ以外の労働者は補完関係にあり一緒に働くことで全体の労働生産性が向上してテクノロジーの導入も促進され(乗数効果)、双方の交流が盛んになることで知識の伝播が促進される(人的資本の外部性)。大卒者の割合が10%増えると、その都市の高卒者の年収が7%増える。都市間の経済的格差は、やがて教育、健康、寿命、家族関係、投票率などあらゆる面での格差へと繋がっていく。
4. イノベーション産業が発展して都市経済が「浮かび上がる」三つの条件:稼ぐ人が稼ぐ人を呼ぶ
①厚みのある労働市場:イノベーション産業の資本は人材。彼等が必要とする高技能・高学歴の労働者がたくさん存在、または流入する、②ビジネスのエコシステム:多様な関連ビジネスやアウトシーシング等による更なる生産性の向上、③知識の伝播:直接交流によって新しいアイディアが生まれ競争が活性化し資金流入が起こる。イノベーション産業は製造業とは異なり互い寄り合う性質があり、こうした「引き寄せ」のパワーによって自己増殖する。
5. 生活コストなどは上昇するが…
「浮かび上がる都市」の生活コストや地価は上昇するが、上述のように、厚みのある労働市場によって雇用の心配が少ないこと(辞めても直ぐに次がある)、イノベーション産業は自己増殖する特徴があり地域サービスの経済活動も引き上げること、その都市の不動産資産が活性化すること(米国人の持ち家比率は70%で資産運用の側面も強い)から簡単には停滞しなくなる。
こうしてまとめてみると、沖縄や日本の事情も似ているような気がしますね。なので、調べてみました。
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