沖縄の自立経済を実現するには企業誘致より移住者を増やした方が効果的かもしれない?という話

こんにちは。築山です。

地方の経済を活性化させる方策は、二つのアプローチに大別されます。一つは、労働市場における需要サイドを刺激する政策で、公的機関による企業誘致や大規模投資などに代表されます。もう一つは、供給サイドを刺激する政策で、地方の魅力を高めたり住み心地を良くして高い技能を持つ労働者を惹きつけ、それを追って企業が進出してくることを期待するものです。

まずは、需要サイドの刺激による地域活性化について見てみましょう。

 

沖縄の企業誘致政策

沖縄の企業誘致について検索すると、下記のような「税制優遇+安価な労働力」切り口でのIT企業誘致~成功事例の紹介をたくさん目にしますが、いいかげん、このアプローチは止める / 止めさせた方がいいと思っています。結局、沖縄にできあがったのは、コールセンターやコンテンツ&ソフトウェア開発の受託業務を主とした、全国平均の半分の労働生産性しかないIT産業でした。雇用は増えたかもしれませんが、地元紙が書いているように県民所得の増加にはほとんど寄与しませんでした

コロナ禍による一時的な減少期間を除けば、求人倍率は常時1.0を超え、失業率も20年前の3分の1まで縮小し「雇用の質」という言葉も掲げられて久しい現在の沖縄で、ワーキングプアが増えるだけの雇用創出政策は支持されませんし、もし、いまだにそれをやっている沖縄の議員や公務員がいたとしたら評価に値しない…とは思っていますが、世界的な賃金上昇と円安で、日本企業の海外BPOが難しくなるであろう流れの中で、この「安価な労働力」アピール政策が再燃しそうで不安です。

企業誘致による地方活性化で成果を出すなら、単なるアウトソーシング先としてではなく、税収や周辺地域への経済波及効果をもたらす本社や工場の移転が必要ですが、小さな離島である沖縄は、用地確保と輸送費のハンディがあるので資本集約型製造業の誘致は現実的ではなく、そうした制約を受けにくいITやバイオ企業などの技術&人的資本集約型企業や研究機関の誘致が理想的です。カリフォルニア大学バークレー校の都市経済学教授であるエンリコ・モレッティ氏の調査研究を記した『年収は「住むところ」で決まる』によると、しかも、こうした技術&人的資本集約型企業は、そこで働く高所得の労働者や研究者の必要とする様々な高付加価値サービス業の起業や活性化に貢献し、その雇用乗数効果は資本集約型製造業の三倍もあるそうです。

 

企業誘致が地域経済を上昇させる三つの条件

同書によると、こうした技術&人的資本集約型企業が地域の経済的上昇に貢献する条件は、① 厚みのある労働市場:こうした企業が必要とする高い知能や技能を持つ人材がその地域に沢山存在すること、② 関連産業のエコシステム:こうした企業が必要とする関連産業が集積しやすいこと、③ 人的資本の外部性:こうした企業やエコシステムで働く人たちの交流によって知識が伝播すること、の三つです。

企業の活動目的は営利追求であり、彼等の視点に立てば、優秀な人材が欲しい / 離れてほしくない、でも、なるべく経費は抑えたい…が本音です。技術&人的資本集約型企業の多くは、自社の勝敗の決め手は人材の質であり、人手不足の影響もあって、そうした人材は給与をケチっていては集まらないことを痛感しているので後者を求めることはありません。その意味でも、冒頭で触れた沖縄のアプローチは完全にズレており、必要なのは「安価な労働力」ではなく、(むしろ、その逆ともいえる)この三つの条件というのは納得できます。

 

OISTの現状:政府の大規模投資による地方の経済的上昇

ノーベル賞受賞者を輩出する世界屈指の研究機関に成長したOIST(沖縄科学技術大学院大学)は、10年間にわたり年間200億円前後の潤沢な沖縄振興予算を注ぎ込んだ、政府の大型投資によって設立された研究機関ですが、設立目的の一つに掲げられた「沖縄の振興及び自立的発展」の実現に関してはまだ時間を必要とするようです。

OISTは、那覇から車で1時間ほどにある恩納村のリゾートホテル群を見下ろす高台にあり、学生の8割は外国人で多くが敷地内の宿舎や近隣に住んでおり、イベント的な地域交流は行っていますが、そもそも五年制博士課程のみの大学院大学なので教育機関としての機能は弱く、沖縄の学力向上を主たる目的にはしづらいのです。また、素晴らしい研究や知財が沢山あるにも関わらず(弊社はコンサルティングで関わっています)、「先端的な基礎研究が多く、地元企業では活用が難しい。経済振興に貢献している印象は正直ない」と答える地元企業経営者の評価に象徴されるように、OISTが牽引する産業集積も十分ではありません。

そもそも、復帰から半世紀にわたって累計13.8兆円の補助金を投入し続けても「沖縄の自立経済は道半ば」だそうなのでこうした大型投資を単なる贈与に終わらせず、経済循環の呼び水にすることは難しいのです。『年収は「住むところ」で決まる』にも、こうした「ビッグプッシュ」による成功事例は世界でも少ないと書かれています。

次のページでは、その地方の魅力を高めたり、住み心地を良くするなど供給サイドを刺激するアプローチについて見てみましょう。

 

次ページに続きます

ページ:

1

2

コンサルティングのご相談、お問い合わせは…

ご相談、お問い合わせ