オリオンビールの挑戦

こんにちは、築山です。

来月、オリオンビールへ野村HDと共にTOBを行う(その後、オリオン経営陣によるMBOを実施)カーライル社は、PEF(プライベート・エクイティ・ファンド)世界大手の一つです。PEFとは、機関投資家や個人投資家から資金を調達して未公開企業に投資すると同時に経営にも関与し、投資先企業の業績と価値を高めて株式公開や売却をすることで利益を得ることを生業とする会社です。

有名なところでは、去年に伝説的ストリート・ファッションのブランドである『Supreme』に出資したり(一部のコアファンからは総スカンを喰らいましたが…)、高いデザインとファッション性で圧倒的な人気を誇るヘッドフォンの『beats』に出資してAppleに売却したり、日本ではベビースターで有名な『おやつカンパニー』や、日本のもやし市場シェアNo.1の『名水美人ファクトリー』(旧九州GGC)などに出資しています。

©️Supreme

 

©️beats

 

カーライル社が投資先を選ぶポリシーとオリオンビールの現状

カーライルが日本での投資先を選ぶポリシーは明確で「従業員数1,000人以下」「売上高200~300億円」。オリオンビールもこの条件にぴったり合致しています。

オリオンビール株式会社
従業員数:158名
売上高 :約280億円
*出典 企業公式HP、日本経済新聞社

オリオンビールの過去4年間の業績を見ると、売上高こそ増え続けていますが、当期利益は2016年をピークに35%減っています。そもそも(発泡酒・第三のビールも含めた)日本のビール市場自体が、人口減少などによって13年連続で縮小し続けているんですね。

オリオンビールの売上高&当期利益
出典 日本経済新聞


オリオンビールは、縮小する内需を受けて海外への輸出強化を行なっていますが、沖縄から近い東アジア諸国の飲酒率は、韓国を除いて日本よりも低く(中華圏の人々には食事時の飲酒習慣がないのと「人前での泥酔は恥」という価値観が根強く残っているそうです)現状の規模感とスピード感では、今後さらに縮小する内需を補うことは難しいと思います。

ホテル・不動産事業は、増加する観光客の増加に支えられて伸びていますが、売上に占める比率は2割弱です。国内大手ビール会社が収益の柱として非ビール部門の比率を5割〜6割にしていることを考えると、今後の市場変化に対応し得る収益バランスを組み立て直す必要があります。

そして、もう一つの大きな要因は酒税法の軽減措置が廃止される可能性が出てきたことでしょう。オリオンビールをはじめ泡盛酒造所の保護を目的の一つとして半世紀近くに渡り延長され続けてきたこの措置も、上記のような市場縮小下で延長することの費用対効果と(税金が財源ですから)さまざまな沖縄の社会問題の温床となっている観点から廃止される流れは当然だと思います(すでに適用期間は短縮されています)。

そして、下記記事にもあるように、オリオンビールの純利益23億円のうち9割近い20億円が減税効果とされています。縮小市場でのビジネスに加えて、利益のほとんどが補助金(税金)であるビジネスでは健全化を目指すのは当然の流れだと思います。

 

オリオンビールの挑戦は、今後の沖縄企業や沖縄経済にとって重要な試金石

一部の県民や地元新聞は、今回の買収を「乗っ取り」「敵対的買収」と見る向きもあるようですが、これは見当違いだと思います。上記記事にもあるように、そもそも株式売却の話が持ち上がったのはオリオンビールの創業家一族と経営陣との「内輪揉め」に端を発しており、市場での生き残りとブランド価値をさらに高めるためには、外部から経営のプロを呼ぶ以外にないと判断したからに他なりません。

そして、最近のカーライル社の投資&コンサルティング活動を見て感じるのは、①日本の企業数の9割以上を占める中小企業の多くが抱える「事業継承問題」(=後継者が居ない、育てられない)に対するソリューションとして、②その商品やサービスがアジア市場に通用するポテンシャルを持つ企業を選んで投資と経営改善を行なっている…ということです。

沖縄企業の事業継承者不在率は84.3%で全国1位ですし、地理的なアドヴァンテージだけでなく、適切な経営と競争原理によって大きく飛躍する可能性のある企業も多く、沖縄は①②の要件を満たしている場所だと思います。

つまり、オリオンビールの挑戦は沖縄のポテンシャルが試される試金石であり、これが成功して同様な流れを作ることによって沖縄企業の労働生産性が上がり、税収や従業員の賃金を上げるチャンスでもある… と築山は考えています。

*2019年8月6日加筆修正

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

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