こんにちは。築山です。
沖縄への観光客数は過去最高を更新し続けており、先月初めて月間100万人の大台を突破しました。特に、外国人観光客数は2年前の約1.5倍になり、沖縄へ来る観光客の約3割を占めるまでに増えています。
強い自国通貨を背景にした外国人観光客
その大きな要因として、各国の通貨価値の上昇(=日本円の価値下落)があることは、以前にもブログで述べた通りです。今月(2017年9月)に入っても、各国の通貨価値はさらに上がっていることから、沖縄への観光客数もしばらくは増加が続くと思われます。外国人観光客だけでなく、アジア諸国への旅行を考えていた日本人観光客も、円安の進行で沖縄へシフトすることもその一助になると予想されます。
しかし、ここまで自国の通貨が強くなると、消費や資本の海外流出が問題になる国も出てきます。先日、中国当局が訪日団体ツアーを制限する通達を出したニュースが流れてきたのはそれを象徴しています。
より沖縄との結びつきを強める台湾
その一方で、沖縄から見ると「本土より近い外国」である台湾は、沖縄との結びつきを一層強化しつつあります。
沖縄と台湾との距離は630km。福岡よりも230kmも近く飛行機で90分です。それもあって来沖する外国人観光客の約3割は台湾からです。台湾通貨(ニュー台湾ドル)の円に対する上昇率は1年3ヶ月で16%も上昇し、中国、韓国、香港のそれと比べてダントツの強さを誇っています。
この流れは、観光だけにとどまらず、産業にも見られます。去年の3月には沖縄本島に台湾企業が出資して『日本菱山』という油圧ブレーキの会社を設立。来年の工場稼働を目指しています。ここ10年間における台湾の一人あたりGDP伸率は+1.8%年、日本の中でも好調とされる沖縄県の約2.3倍もあります。一昔前に日本の製造業が生産コストの安いアジア諸国に工場を移設したようなことが、逆に今の台湾に起こり始めています。もはや立場は逆転した感がありますね。
背景にある台湾のお国事情
台湾といえば、シャープを買収してあっという間に黒字化させた『鴻海精密工業』に代表されるEMS(自社ブランドを持たずに電子機器の設計や製造を行う産業形態)や自転車ブランドの『GIANT』などの製造業を主軸として、香港・韓国・シンガポールと共に「アジア四小龍」と称される程の経済成長をしました。
しかし、近年ではその成長も鈍化し(それでも日本よりは遥かに上ですが)加えて2015年から生産年齢人口も減少に転じており、日本以上に急速な人手不足と高齢化社会が進むことが予想され、台湾政府には新たな成長戦略を早急に打ち出すことが求められています。
1. 売上&利益を上げるために「ブランド力」を上げる
企業や国が、人出不足と高齢化社会を乗り切るためには売上&利益を上げて労働生産性を高める他はありません。「製品は優秀でも決して表に出ることのない裏方」であり「安く買い叩かれる危険のある世界の下請け企業」的な存在であるEMS方式から脱却するためには、自社をブランド化する必要があります。鴻海精密工のシャープ買収も、上述の沖縄県への工場進出も「メイド・イン・ジャパン」というブランド(このブランドがいつまでもつかは別問題として)を手に入れるには一番手っ取り早い方法です。通貨価値の上昇を追い風にして、近年の台湾企業の動きには、こうした狙いがあると思います。
2. 中国との微妙な関係
また、台湾を語る上で外せないのが中国との関係です。互いに複雑な歴史を持ちながらも経済的には相互依存をしており、それでも政治的・文化的には一線を画しておきたい…というバランスの中での微妙な国家の舵取りが求められます。近年、台湾の輸出額の4割を中国が占めるようになり、過度な中国依存から脱却するためにASEAN諸国+インドへの進出と営業を強化し始めました。そのシナリオの中に円安の進む日本が、その中で歴史的にも文化的にも繋がりの深い沖縄に白羽の矢が立つのは必然の流れだと思います。
余談ですが、近年の台湾文化を語る上で大きな流れを形成している『MIT』(Made In Taiwan)運動の背景には「中国は模造品と海賊版の国、台湾はそんなことをせずデザインの力で製品の付加価値を上げる!」という台湾人のプライドが生んだものだ、とある台湾人が教えてくれました。
台湾の成長は沖縄にとってもチャンスになり得る
補助金依存で県の自主財源が3割しかなく、主だった製造業のない沖縄県にとって、そこから脱却する上でも、台湾成長の良きパートナーとなることは、重要なポイントになると思います。ただし、そのためには、まず我々沖縄県民がその要件を満たせるような労働生産性を身に付け、彼等の成長スピードに付いていけるようになる必要がありますね。その昔「小琉球と大琉球」と呼ばれ、同じ文化圏だった琉球王朝時代のように共に繁栄出来ればいいな…と思います。
築山 大
琉球経営コンサルティング