にぎわい転じて消耗を成す:沖縄観光収入の減少

こんにちは。築山です。

去年度の沖縄観光収入が発表されました。958万人という「ハワイ超え」が話題になった観光客数の勢いを受けて観光収入も6,979億円となり5年連続の上昇となりました。

*2018年11月追記:その後ハワイが観光客数が上方修正し「ハワイ超え」は幻となりました

観光を基幹産業とする沖縄県にとっては喜ばしいニュースではあるのですが、詳細を調べるほど先行きに不安を感じてしまったのでここに書いておきます。

 

海外観光客増加の主要因は「沖縄の魅力」ではない?

2011年からの6年間で、沖縄の観光客数は1.7倍、観光収入は1.8倍となりました。この期間に何があったかを見てみると、2013年から大幅な円安が進行しそれに呼応して海外観光客が急増しています。海外観光客の増加数は実に国内観光客の1.5倍で、沖縄の観光客増加を牽引しているのは海外観光客であり「増えた観光客の3人に2人は外国人」ということになります。


海外観光客について更に調べると、2014年から中国から日本に入国するビザの発行条件が大幅に緩和されました(沖縄県か東北3県に1泊以上、去年は更に東北6県にまで拡大)。沖縄の海外観光客の内訳は台湾・韓国・中国・香港で全体の8割を占めていますが、ビザ緩和と人民元高によって中国からの観光客数は人数にして8.0倍となり2013年に11%だった割合が
20%を占めるまでに増えました。
中国ほどではないにしろ、韓国もウォン高を背景に観光客が増え人数にして5.5倍となり20%を占めるに至ってます。

自国の強い通貨価値を背景に来沖した観光客が行う主な活動は当然ながら「買物」になり、実際に海外観光客への活動内容ヒアリングでも、自然・景勝地観光や沖縄料理を楽しむより、都市観光やショッピングをした人の方が多くなっています。いわゆる『爆買い』というヤツですね。
こうして調べてみると、残念ながら沖縄の海外観光客の増加の主な要因は「沖縄の魅力」よりも「為替レートのボーナス+ビザの緩和」だということが分かります…。

 

このままいくと2年後に観光収入は減少する?

下のグラフを見てください。左側は観光客数と観光収入の実数推移です。ニュースなどでよく目にする綺麗な「右肩あがり」のグラフはこれですね。しかし、これらを前年比に置き換えた右側のグラフにすると意味合いが全く逆になってきます。
観光客の前年が順調に推移しているのに対して、観光収入の前年は2014年をピークに鈍化しています。原因となっているのは旅行者1人あたりの消費金額の減少で、実は2016年度から前年割れを起こし始めています。

「旅行者1人あたりの消費金額 = 平均滞在日数 × 1日あたり使用金額」ですが、1日あたり使用金額には変化がありません(それどころか、沖縄がお手本とするハワイ旅行者のそれとも大きな差はありません)。つまり、消費金額の減少は平均滞在日数の減少に起因しています。
せっかく「為替レートのボーナス+ビザの条件緩和」のお膳立によってブーストされた沖縄観光収入の増加も2014年をピークに年4%ずつ減少しています。この推移が続くと2年後の2019年度には前年比が100%を切る計算となり、観光収入は頭打ち〜減少に転じる可能性があります。

 

問題の本質は、客数を評価軸にしてしまうことによる消耗戦

2020年には東京五輪による特需という新たなブーストがあるので沖縄の海外観光客はさらに増えるでしょう。しかし、客数が右肩上がりの今でさえ客単価の減少によって観光収入の伸びは鈍化しており、沖縄の観光業は「客数ばかり増えて忙しいわりに儲けの少ない消耗戦」に突入しています
そして、この状況に追い打ちをかけるように「人手不足」の波が襲っています。ちなみに、今沖縄で最も人手不足に悩んでいるのは観光に関係する宿泊・飲食業とサービス業です。この状況を改善できないまま五輪特需を迎えてしまうと、今以上の消耗戦になることは確実です。

昨今『にぎわい』というマジックワードの氾濫が象徴しているように、日本は過度に客数を評価軸にしてしまうことで出口のない消耗戦に陥ってる傾向が強いと思います。
実際、過去に築山がコンサルティングで業績改善した小売業の中には、放っておいても来店者の増える給料日や繁忙日にわざわざ値引をしたり、曜日販促を惰性で続けることで、本来あげるべき売上や利益を毀損していた企業様も多くありました。忙しいので仕事をした気分になったり、目の前に
お客様が沢山いるから安心…というのは思考停止の危険な状態です。『にぎわい転じて消耗を成す』…今、沖縄の観光業はまさにその状態だと思うのです。

 

無駄に頑張るのではなく、正しく頑張る

必要なのは、観光収入の成り立ちを構造的に理解し、評価軸を客数から客単価に変えることです。現在、世界3位の観光収入を誇るタイは、客数の評価軸から客単価の評価軸へのシフトを明確に打ち出しています。

また、沖縄がお手本とするハワイは、徹底したマーケティングの結果『サステイナブル』というテーマを掲げ、自らの観光資源である環境保護を保護することでブランド価値を高める下記リンク先のようなアクションを始めています。ちなみに、多少不便であってもそういった理念に共感してくれる観光客は往々にして富裕層に多い傾向があります(余談ですが、この法案に署名したハワイ州知事のデービッド・イゲ氏はオキナワンです)。

客数を増やすのとは異なり、客単価には特需によるブーストや偶発的な要因による急上昇などは殆ど起こり得ません。ブレない軸と長期的な戦略が必要です。無駄に頑張るのではなく、正しく頑張る。沖縄観光業の客単価を上げ、観光収入を増やすためのレポートを別途まとめていますので、是非読んでみてください。

 

築山 大

琉球経営コンサルティング

 

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