沖縄の観光業は沖縄経済を牽引していない

明けましておめでとうございます。築山です。

沖縄は観光業を県の「リーディング産業」と位置付けていますが、数字で見る限り、観光客や観光収入の増加にも関わらず、それらが沖縄経済を牽引(リーディング)しているとは言い難い状況が続いています。

下のグラフを見ればわかりますが、観光収入は10年間で1.6倍に増加したにも関わらず、飲食・宿泊産業や卸売業・小売業の県内総生産額は全く増えていません。

この事実が浮き彫りにするのは、沖縄経済は、観光客の落としたお金を地元に還元することが出来ない、地域経済のサイクルを回せないぐらい、スカスカで貧弱な経済基盤であるということです。

例えば、観光客の消費行動…
宿泊 ⇒ インターナショナルや本土チェーンのホテル
移動 ⇒ レンタカー会社の多くは本土チェーン
飲食 ⇒ 食材の県産品利用率は5割以下
土産 ⇒ 県産品売上比率は6割程度
物販 ⇒ 海外客の主な買物場は本土チェーンのドラッグストアやコンビニ
…結果として、沖縄企業に観光客のお金は落ちない
*参照:平成30年度沖縄県観光産業実態調査

そして、このことを県民は肌感覚で理解しており、県民意識調査では「観光の発展によって自分の生活も豊かになると思う」と答えた人が三割を切っていることからも明らかです。経済的恩恵は少なく、負担だけが増える…。いくら政府や県が「オーバーツーリズム」という言葉の使用を避けても、実情はそれそのものです。


つまり、観光業は沖縄県の「リーディング産業」ではありませんし、この構造を変えない限り、観光業は地域振興どころか地域経済の破壊に繋がりかねません。

 

観光収入だけでなく補助金も効かないザル経済

この構造、何かに似ていると思ったら、沖縄の補助金運用と同じですね。全国25位の人口の島に、人口あたり全国1位の国庫支出金(沖縄振興予算)が流れ込んでいますが、それらを運用して行われる公共工事を請け負う企業の半分は本土企業であり、県民所得はずっと全国最下位のままです。
県や地元紙は補助金の減額に怒るのもいいですが、こうしたザル経済の構造を変える議論もしないと、仮に補助金が増えても状況は変わらないでしょう。

 

補助金がザル経済を加速させ、経済のサイクルを滞らせている

ボロボロの土壌(経済基盤)である限り、いくらそこに種を捲いて水や肥料(観光収入や補助金)を与えても育たないのと同じです。

その地域の経済サイクルを回すためには、①需要に対する供給を域内調達できる、②そこで得た収入が従業員に還元され新たな域内消費を生み出すこと、の両軸が必要です。

例えば、ここ数年で開業した沖縄の大型商業施設の多くが不振店に陥っているのは、全国最下位の所得の島に、全国平均の1.4倍の総合スーパーが存在するオーバーストアによって②のバランスが崩れているからに他なりません。

購買力のない経済圏に出店しても成り立たないのは当然なのですが、沖縄には膨大な補助金が流れ込んでおり、その多くが土木・建築業に大部分が使われるので、先祖から受け継いだ共有財産であり、重要な観光資源でもある美しい珊瑚礁の海を埋め立ててショッピングセンターや滑走路を作ることで更に②のバランスが崩れます。

冒頭のグラフに建設業を加えてみると、沖縄経済を牽引しているのは建設業であることがよく分ります。大型商業施設の相次ぐ出店は小売業ではなく建設業の振興が目的なワケです。沖縄がオーバーストアである理由や、イビツな経済成長の構造がよく分かりますね。



 

全てのカギを握るのは労働生産性と付加価値

上記の経済サイクル①②を回すポイントは付加価値です。付加価値によって選ばれて調達が可能となり(①)、付加価値で選ぶことで消費が生まれる(②)のです。

また、所得と相関関係が強いのは、正社員比率ではなく、労働生産性であることが明らかになっています。そして「労働生産売上 = 付加価値売上 ÷ 従業員数」ですから、県民の所得を上げたいのであれば、正社員を増やすよりも、先ずは付加価値を高めることが重要です。

付加価値を高めるためには、他には無い価値(独自性)を生み出すか、他よりも圧倒的に優れていること(突出性)のいずれかが必要であり、これには、誰が見ても分かる客観的な指標による裏付けが必要です。

独自性と突出性の無いモノやサービスは、安価であること以外に勝負のできないコモディティに成り下がってしまいます。沖縄が稼げない理由の一つはここにあると思います。よく「沖縄らしさ」という言葉をよく使われますが、本気で付加価値を高めたいのであれば、独りよがりで主観的な自己評価を止め、マーケティングセンスを磨いて「沖縄らしさ」を客観的な指標で語れるようにすることです。

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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