こんにちは。築山です。
沖縄県が導入を検討している観光客への宿泊税について、下記の記事を読む限り、予想通りというか危惧していた方向で議論が進んでいるようです。残念ながら、課税目的や使用用途が曖昧なまま「導入ありき」で進んでいるようです。(使途の)『詳細は今後決める』という部分からは、露骨な印象さえ感じます…。
以前にブログでも述べたように、築山は宿泊税には賛成ですが、その目的と用途が自然環境(=観光資源)の保護や、県民の生活水準向上に使われるのであれば…の話です。
沖縄県民の一人として、健全な税の徴収&運用と、観光客から共感と支持を得て宿泊税を支払ってもらうために、以下、課題や矛盾点を整理しておきます。
1. 世界のスタンダードは「定額」ではなく「定率」
ざっと世界の主要観光国の宿泊税・観光税について調べてみましたが「定額」を採用している国は日本(東京都、大阪府、京都府、金沢市)ぐらいでした。観光という消費活動の性質を考えるなら、宿泊税というものは「受益者負担」であるべきです。杓子定規な平等主義よりも、公平(=フェアネス)の追求。世界基準が「定率」となっている根底にはこの考え方があると思います。
沖縄における議論では「定額」によって生じるであろう不平等を解消させるために『二段階式の定額』なるものが検討されているようですが、これは観光客から見た分かりづらさや処理手続きの煩雑さが懸念されますし、そもそも「定率」にすれば生じない問題です。
2. 県民への課税と修学旅行客への課税免除
記事には『税の公平性の観点などから、県民や子どもも対象』と書かれています。域外から訪沖する観光客が支払う宿泊税を県民が宿泊しても払うことが、どうやったら『公平性の観点』から妥当なのか?築山は理解に苦しみます。
県民の県内宿泊という場面は、築山の周囲の方々を見ると「飲酒運転をしないために飲食後に宿泊する」というパターンが日常的です。こうした真っ当な行為のモチベーションを低下させる課税というのは「飲酒運転事故率27年連続全国1位」という不名誉記録を持つ沖縄県は避けるべきだと思います。これでは、徴収した宿泊税の使途の『県民理解の促進』は絶対に実現できませんね…。
また『修学旅行は誘致への影響が懸念されるとして、海外も含めて課税免除の対象』という理由も理解できません…。
沖縄の観光客全体に占める国内修学旅行客は4.5%しかなく、しかもその数は2011年をピークに年1%ずつ減少しています。子供の数が減っているので当然ですね。全体の5%程度で、しかも縮小を続ける客層に対して「誘客への影響を懸念」して課税免除をしたところで得られる効果は限定的かつ時限的です。
3. 客数至上主義の呪縛と観光業従事者へのさらなる負担
上記のような議論内容から感じるのは「観光収入は増やしたいが、客数も減らしたくない」という客数至上主義の呪縛です。往々にして、経済原理では客数と客単価はトレードオフの関係にありますし、世界の観光主要国は、観光収入を上げる手段として「客数<客単価」にシフトし、持続可能な観光業の成長とオーバーツーリズムの回避を始めています。そもそも、宿泊税の「定額」というのは人頭税ですから、税収を上げるためには観光客数の増加が必須になるんですよね…。
そして、何よりも築山が懸念するのは、過度な客数至上主義に陥り「にぎわい転じて消耗を成す」状態と人手不足と低賃金の中、観光業の現場で働く多くの方々が、課税対象や運用に合理性を欠き矛盾も多々ある宿泊税について、観光客に説明することへの物理的&心理的な負荷です。観光業は、経済的な自立を目指す沖縄の基幹産業ですが、これでは観光収入を上げる以前に、そもそも観光業の担い手が居なくなる危険を孕んでいると思います。
4. ブランドに必要なのは理念の具現化。宿泊税導入&運用はそれを示すチャンス
沖縄が本気で『世界に誇れる観光リゾート地として発展すること』(記事中)を目指すのなら、沖縄や日本の価値観や視点ではなく、世界の潮流やルールに習うのがいちばん合理的で効率的です。そして、こういった世界的な名声(=ブランド)と呼ばれる存在は、自らの「在り方」というものをあらゆる場面で分かりやすく具現化し、顧客からの共感を得て信頼関係を築いています。
沖縄のようなリゾート地に限らず、自然環境や歴史文化を観光資源とする国々は、他の地域と同じような開発や経済活動の恩恵を制限や放棄してそれを維持したり、オーバーツーリズムによる破壊からも護らなければなりません。宿泊税というのは、それを理解する観光客から頂く補填的な意味合いを持つものであり、その収入は観光客よりも地域やそこに住む人々のために使うべきです。そして、それを掲げるのであれば(多少の経済的不利益が発生したとしても)自らの「在り方」もまた行動で示さなければ、世界の観光客からの理解は得られません。
国だけでなく県民自らが海の埋め立てを促進したり、植物を破壊するだけでなく発ガン性もある除草剤を子供が遊ぶ公園に撒き散らしているうちは世界からの理解と支持は到底得られませんよね。
築山も環境保護のために生活や行動を変えつつ、沖縄の観光業が持続可能な成長をできるよう、クライアント企業の方々と一緒に、取り組んでいく所存です。
築山 大
琉球経営コンサルティング