沖縄県のホワイトカラーの年収は東京都のブルーカラーよりも低い
日本の学歴別年収は分かりませんでしたが、総務省の「就業構造基本調査」にある年収階級別の職業別人口数から、正社員の年収を職業別・都道府県別に推計してみました。それによると、ホワイトカラー(管理職+専門・技術職+事務職)の年収が、東京都のブルーカラー(生産工程+輸送・機械運転+建設・採掘+運搬・清掃・包装+農林漁業)よりも低い地域は15県あり、そこに沖縄県も含まれています。さらに、沖縄県のホワイトカラーの年収は全国のブルーカラー平均値よりも低いのです。これらの地域は、いわゆる出稼ぎや季節労働者の多い地域とも重なりますね。やはり日本も米国と似た傾向でした。
*参照:プレジデントオンライン「東京の清掃員は沖縄の営業マンより年収が高い?」(舞田敏彦)
沖縄県のIT産業が県民所得を押し上げられなかった理由
沖縄県にも、IT企業の誘致によって県民所得の向上を試みた時期がありましたが、主としてソフトウェア開発の下請けやコールセンターなどの雇用を増やしただけで、 労働生産性は全国平均の半分で、本書に書かれているような地域サービスの雇用誘発効果もほとんど起こりませんでした。
その原因を、上述の本書内容に照らし合わせてみると、沖縄に「厚みのある労働市場」が存在しなかったことが大きいと思います。イノベーション産業が必要とする高技能・高学歴の労働者が少なければ、税制優遇と安価な労働力を目的としたイノベーティブでないIT企業が沖縄に進出するだけです。そういった企業に技術やカネを地域に還元する力はないですから、IT産業によって沖縄が「浮かび上がる」ことはできません。
沖縄がイノベーション企業のレバレッジで「浮かび上がる」ためには?
イノベーション産業によるレバレッジで「浮かび上がった」アジアの事例を挙げるとすれば、真っ先に思い浮かぶのはシンガポールでしょう。国民1人あたりGDPは世界第5位で日本の約2倍、面積は沖縄県の3割程度の小さな都市国家ですが、意外にもGDPに占める製造業の割合は25%と日本と同規模で沖縄の4倍もあり、その中心はITやバイオテクノロジー、ライフサイエンスといった知識集約型の外資系企業です。
シンガポールの成長を本書に事例に当てはめると、①厚みのある労働市場:母語と英語のバイリンガル教育が基本+世界ランキング11位(アジア1位)の国立大学をはじめとした複数の大学+政府による公共職業訓練制度への継続投資、②ビジネスのエコシステム:政府主導の強力な経済政策や資金調達力で金融ビジネスから高付加価値製造業への転換を実現、③知識の伝播:外国の企業進出や高技能外国人の就労条件として、これらの大学や公共職業訓練施設を卒業した自国の高技能労働者を一定数雇用することが義務付けられており、外部からのイノベーション人材と自国民との交流が促進される設計がなされている…成功する条件を全て満たしていますね。稼ぐ人が稼ぐ人を呼ぶ、自己増殖のサイクルが出来上がっています。
また、イノベーション企業や高技能労働者が働く場所を考慮するときには、経済以外の生活環境や文化的要素も判断材料となります。シンガポールは、マリーナベイ・サンズやF1グランプリ開催をはじめとして経済以外の総合的な魅力を高める努力を行なっていること。そして、英語を話せる国民が多く労働者の4割が外国人であり、排他的でなくオープンな国民性であることも大きな要素となっています。実際、シンガポールは世界銀行の「ビジネスのしやすい国ランキング」で世界2位です。
沖縄が、過去のIT産業政策の失敗を乗り越えてイノベーション企業のレバレッジで「浮かび上がる」ためには、シンガポールを参考にした官民協働の政策と実行が必要だと強く感じました。何はともあれ「厚みのある労働市場」、つまり教育と人材育成が大切ですね。
築山 大
琉球経営コンサルティング