「ぬか喜び」に終わった沖縄観光客数の「ハワイ超え」: 5つの現状認識と課題

こんにちは。築山です。

今年の2月に、2017年の沖縄の観光客数がハワイを超えたというニュースが報じられ、沸きに沸いた沖縄観光業界と経済界でしたが、先日、ハワイ州観光局(HTA)が観光客数の上方修正を発表し、残念ながら沖縄の観光客数はハワイを下回ってしまいました。

このブログで何度も述べてきたように、目指すべきは、観光収入の拡大と、それが沖縄の経済成長を牽引する産業になることです。観光客数の増加はその手段(構成要素)の一つでしかなく、ハワイと本当に競うべきはそこではありません。

上記リンク先の記事には『県はこれまで「ハワイ超え」をアピールしてきたが、人気リゾート地のハワイと「同水準」に変わりないとして各種誘客策を進める考えだ…』とのコメントがありますが、改めて現状理解と課題を客観的に認識した上で、それに対してロジカルで効果的な戦略を立てる必要があります。
築山がコンサルティングでお手伝いをしている沖縄企業の多くも、直接・間接的に観光業に関わってらっしゃるところが多く、その視点で一緒に取り組んでいます。

 

現状理解①:沖縄の観光収入はハワイの3分の1しかない

今回、HTAが上方修正したデータに基づいて、沖縄とハワイの観光収入を構造分解してみました。

観光客数 × 1人あたり消費額 = 観光収入
滞在日数 × 1日あたり消費額 = 1人あたり消費額

これを踏まえて実際のデータを見ると、本当の問題は、沖縄の観光客数が数千人ほどハワイより少ないことではなく、観光客数は「ハワイ並み」なのに観光収入はハワイの3分の1しかないこと、そしてそれは滞在日数の差が影響している、ということがはっきりと分かります。

 

現状認識②:沖縄の観光客数の増加要因は「為替レートのボーナス」

今や「ハワイ並み」となった沖縄の観光客数は、2012年以降の急激に伸びによるものです。これは、円安の進行によって東アジア諸国からの観光客が増えたことと、中国からの入国ビザ発行の条件が緩和されたことが要因です。強くなった自国の通貨価値を背景に「安くて近い外国としての沖縄」に来た…ということです。
そうした彼らの活動は、当然ながら「買物」がメインとなり、実際、海外観光客への行動調査でも「ショッピング&都市観光」が「自然景勝地観光」や「マリンレジャー」よりも多くなっています。残念ながら、観光客の増加要因は、沖縄の自然や歴史文化の魅力よりも「為替レートのボーナス」ということが浮き彫りになっています。

ちなみに、最近の米中貿易摩擦による人民元と中国企業の株価暴落の影響で円高の傾向が強まっています。円安という為替レートのボーナスが一因で増えた中国人観光客ですから、この先の客数や消費額の減少につながる可能性もあります。

 

現状認識③:沖縄の観光収入の伸びは鈍化している

さらに問題なのは、観光客数が伸びている一方で観光収入の伸びは鈍化していることです。これは、1人あたりの消費額が前年割れを起こしていることが原因で、さらに見ると、滞在日数も、1日あたり消費額も、前年割れを起こしているんですね。つまり、忙しいだけで売上増には全く繋がっていない状態という「典型的な消耗戦のパターン」に陥っています。
ここまでくると、築山が「客数を評価軸にしてハワイと競い合うことは無意味」と述べている理由を理解していただけると思います。

 

現状認識④:沖縄の観光収入は本当の意味で沖縄経済を牽引していない

伸びが鈍化しているとはいえ、沖縄の観光収入が増えていることは事実です。しかし、これが本当の意味で沖縄経済の牽引力となっているかどうかは「雇用誘発倍率」という指標で確認することが出来ます。

雇用誘発倍率 = 経済波及効果 ÷ 観光消費額

観光消費額が伸びているので、経済波及効果も伸びているのは当然なんですが、雇用誘発倍率の推移を見ると2000年から2017年に至るまで伸びておらず、むしろ微減しています。これも上述と同様の「典型的な消耗戦のパターン」の状態です。

 

現状認識⑤:…そして、沖縄県民はそれを肌感覚で分かっている

急増した観光客による忙しさに比例して増えない観光収入と成長しない観光業、どこに行っても目にする混雑、そして依然として全国最下位の賃金…。観光業は重要とは分かりつつも、沖縄県民の観光業に対する目が冷めたものになるのも当然です。今や、沖縄は完全に「オーバーツーリズム状態」です。


 

観光客数ではなく観光収入を増やすために

観光収入を増やすためには、為替レートの影響に左右されやすい客数を増やすことよりも、1人あたり消費額を増やすことの方が重要です。そしてこれは、滞在日数と1日あたり消費額を増やすことと密接につながっています。
繰り返しになりますが、これまで見てきた現状認識と課題を(本当に)理解し、それに対してロジカルで効果的な戦略を立てること、つまり、マーケティングセンスが必要になってきます。

【顧客】滞在日数の長い観光客とは?
⇒ どの国から?
⇒ どんな属性、価値観、ライフスタイルか?
⇒ 旅行の何にお金や時間を使うのか?

【競合】他のビーチリゾートと比べて
⇒ 他が持っていないもの
⇒ “圧倒的に”勝っているもの

⇒ それは長期滞在につながるものか?

【沖縄】その上で自分たちは何をすべきか?
⇒ 自画自賛ではなく客観的な付加価値の再編
⇒ 優先順位、長期的戦略と短期的戦術の区分け
⇒ 公正な経済サイクルと収入再分配の仕組み

こうしたフレームワークを用いて、長期滞在客の属性やライフスタイルを明らかにし、ハワイや世界的なリゾート地での旅行コンテンツ・メニューや提供方法、その効果などを分析したレポートを作成し、築山は、観光業に関わるクライアントの沖縄企業と観光収入を上げるための活動に取り組んでいます。

ある沖縄クライアント企業の社長がおっしゃっていた言葉に全てが集約されていると思います。「沖縄の観光業を考えることは、沖縄の自然や歴史文化、沖縄そのものを考え直すことと同じ。ワッターに何が足りてなくて、何を大切にしたいのかを、外からの視点を通じて再認識できる…」


 

観光業に限らず、経済成長には必ずメリットとデメリットがあります。それらを把握した上で、どうするのかを決めるには、自分たちが大切にしていることや、その優先順位など「価値観と美意識と判断基準」がなければなりません。実は、それこそが、長期滞在の観光客がその土地に最も期待しているものなのではないか?…と築山は思うのです。


築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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