インバウンドと富裕層旅行者

こんにちは。築山です。

先週は、6月からコンサルティングを行っていた企業様に体験型観光事業の事業計画書を納品しました。
弊社のブログを読んでくださった社長から「現状の延長線上には消耗戦しかない。全く別の視点と発想で観光業を考えたい」というオーダーを受け、市場調査とマーケティング分析をしながら週一回のセッションを通じて一緒に事業計画書を作成しました。

 

沖縄の観光業の課題と、他社が手薄だった事業領域

ご存知のように、沖縄の観光業は客数の増加が観光収入に直結しない消耗戦に突入しており、海外客の観光収入は減少に転じオーバーツーリズムは顕著になり観光業従事者の給与は低いままで県民の観光業に対する支持や期待は低下しています

こうなった原因は、観光客の消費額の減少です。行政は、客数至上主義の呪縛にハマり、クルーズ船客を増やすことで消費額を激減させ、観光客の旅行目的がモノ消費からコト消費へと変化しているにも関わらず、民間企業は目先の利益ばかりを追い求め、消費額(滞在日数)を増やすような魅力ある観光コンテンツをどこも開発出来ていません。

本土企業のような資本力のない沖縄企業が、後発で、観光産業で収益をあげていくには、他社がやっていない(手薄な)領域や市場で観光コンテンツやサービスを開発し、そこでシェアNo.1を獲得する(厳密には26.1%以上)ことが鉄則です。

この鉄則と、弊社の持つ沖縄観光業の現状分析と今後の市場予測、クライアント企業様の持つ独自のリソースなどを総合的に考えた結果、浮かび上がってきたのは、7泊以上の長期滞在者や、いわゆる富裕層旅行者をターゲットとした観光コンテンツやサービスに特化した事業でした。

 

富裕層旅行者とはどんな人たちなのか?

日本政府観光局(JNTO)の定義によると、富裕層旅行者とは「飛行機代を除く、1回の旅行で1人100万円以上の消費をする人」だそうです。金額は確かに大きいのですが、彼等の旅行日数(滞在日数)は通常のヴァカンス休暇だと4週間程度になるので1日あたり消費額にすると3.5万円〜になります。ちなみに訪沖外国人の平均消費額が約2.6万円ですから、そう考えるとあまり差はないようにも思えます。

何が言いたいかというと、全ての富裕層旅行者がホテル最上階のスイートルームに宿泊し、毎晩豪勢なディナーを食べ、訪問場所を借り切っているわけではない…ということです。上記定義で言えば、ヴァカンス休暇での長期滞在者も富裕層旅行者に入りますし、その消費スタイルや客層は多様化しているのです。

余談ですが、地方自治体の9割のインバウンド担当者が海外富裕層の定義を持たずに対策を考えているそうです。「顧客が誰かを分からずに対策を考えている…」ということですかね?築山にはちょっと理解し難い部分です。

 

インバウンドマーケティングの基本と富裕層旅行者向けサービスを考えるキーワード

富裕層旅行者であろうと、通常旅行者であろうと、インバウンドマーケティングの基本である「顧客の目線で自己認識とサービス価値を創造すること」は同じです。
その前提として、例えば「訪沖する中国人観光客の3人に1人は30代女性」のように、国別の社会背景や旅行志向をちゃんと理解しておく必要はあります。
それをせず、独りよがりな視点で
「おもてなしという名の押し付け」をしてダダすべりしている観光コンテンツやサービスを多く見かけます。これでは富裕層対応以前の話です。そのあたりが不安な方は下記にまとめた分析データを読んでみてください。


富裕層旅行者の市場はクローズドな性質を持っているので、彼等への観光コンテンツやサービスを考えるうえで、
一般的なマーケティング理論や方法論は通用しません。彼等を常連客にしているガイドや通訳の方々と話して浮かび上がったキーワードは以下のようなものです。

ラグジュアリーはエクストリームでもある
富裕層旅行者は「そこでしか体験できないこと」「簡単に手に入らないもの」に価値を見出します。これを突き詰めると南極旅行や、秘境旅行などのエクストリームツアーになります。フランスのポナン社による南極クルーズツアーは彼等に人気です。クルーズ船といっても、沖縄に来航するような環境汚染を撒き散らすマンションみたいに大きなものではなく、200人乗りの居住性に優れた内装と、自然環境に配慮した電気とのハイブリッドエンジン、砕氷機能や軍仕様の上陸艇を搭載した超高スペックのクルーザーです。

本物であること特別であること、その価値が理解できること
「そこでしか体験できないこと」「簡単に手に入らないもの」は、例えば世界ランキングや格付けのような客観的指標による裏付けや、専門家による説明などによって彼等に価値を理解してもらうことで高い報酬を払ってもらえます。例えば「地域との交流」は、彼等をただそこに放り込むことではなく、その地域の歴史文化に精通した人が彼等の言語で説明してこそ初めて意味があるのです。

個別対応やカスタマイズが基本
日本では理解しにくい概念かもしれませんが「安全であること(セキュリティ)」は、海外の有名人や富裕層旅行者にとって重要な要素です。人目や人混みを避けて旅行したい、時間のロスなく移動したい、これらは我儘というよりセキュリティの感覚からきています。なので、観光コンテンツやサービスは個別対応やカスタマイズが基本です。チップ文化に象徴されるように「融通を効かせてもらうことの対価」として彼等は高い費用を払うのです。もちろん、その土地や人への配慮を欠いた要求は断ります。

金額ではなく「支払う理由」を重要視する
富裕層旅行者には、自然環境保護や社会問題に関心が高く、自らもそれを実践している人が多くいます。贅沢に過ごすことよりも、何もない自然で過ごすこと、その自然環境を保護したり地域経済圏の発展のために、モノやサービスそのものよりも理念や価値観にお金を支払う感覚です。なので富裕層旅行者に支持されるサービスを行うのであれば自らがそれを実践していなければなりません。沖縄の3倍もの観光収入を稼ぎ出しているハワイはそれを具現化しています
あと、富裕層だけでなく海外客が見て強烈な違和感を感じるのが、日本の観光イベントで見る「ミス◯◯」や「◯◯の女王」などの女性による接客や接待だそうです。世界中で、女性やジェンダーに対する意識が変化している中でこの光景は異常であり「そんなサービスに金は払いたくない」という声さえ聞こえます。


富裕層旅行者への観光コンテンツやサービスを考えるには、我々が、修学旅行や社員旅行に象徴される「昭和の団体旅行的価値観」から脱却しなければなりません。彼等にとって旅行は単なるに「レクリエーション」ではなく、ゆっくり休んで鋭気を養ったり自らの知見を広げるための「ヴァカンス」なのです。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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