沖縄食文化の継承と、既存市場に対する逆張り戦略としての「沖縄文化食堂」

こんにちは。築山です。

弊社が、5年に渡ってコンサルティングをしている、東京・首都圏における沖縄食材業務用卸でシェアNo.1の株式会社香那ホールセール様が、BtoCのビジネスとしてゴーストレストラン(UberEATSなどを使ったデリバリー専門飲食店)『沖縄文化食堂』を開業しました。*現時点では、東京都 杉並区 高円寺周辺のみのサービス提供です

BtoCビジネスに関しては、一足先に、沖縄で有名なタコライス屋『RuLer’s TACORICE』のキッチンカーを運営しており、キッチンカー・プラットフォーマーのランキングで上位に入るほどの人気ブランドになっています。

宇根社長と次のブランドの立ち上げについて話していたとき、「食堂」というキーワードが降りてきました。沖縄の人たちにとっての「食堂」は、本土のそれとは違う特別な存在です。

 

沖縄食文化の継承者として

沖縄戦で焦土となり、戦後の米国統治時代が長く、本土の飲食チェーンの進出が遅かった沖縄では、配給の余剰食に島の食材を組み合わせた、様々なジャンルや種類の料理を安価で提供する「食堂」が独自の発展を遂げました。

沖縄には、観光業を中心とした産業構造や高い共働き率を背景として外食文化が根付いており、中でも「食堂」は、店のキッチンで働くおばぁたちの家庭料理を基礎に、誰もが気軽に⽴ち寄れる庶⺠の社交場として発展し、沖縄の人たちの暮らしに⽋かせない存在となりました。さらに近年では、WEBメディアやSNSなどの発達によって、老舗の「食堂」が沖縄好きの旅行者の間で人気の観光スポットとなっています。

しかし、県民所得が全国最下位の沖縄で、地元客をはじめとしたたくさんのに食べてもらい、地域コミュニティの中心的な役割を果たそうとすれば、昨今の原材料や人件費の高騰を踏まえての価格転嫁は困難を極めます。加えて、沖縄は人口あたり飲食店数が全国2位の激戦区であり、全国チェーン店の進出や後継者不足も相まって、多くの「食堂」が次々と姿を消しています。

沖縄の食文化において「食堂」が担って来た役割や精神みたいなものを絶やさないために、沖縄食材の卸業として出来ることをやる。沖縄出身のスタッフがメニュー開発し、良質な沖縄食材をふんだんに使った沖縄料理を、沖縄を愛する東京の方々や、東京に住む沖縄出身者に提供することで、東京で沖縄文化を育む。これが『沖縄文化食堂』を開業した理由です。

ちなみに、『沖縄文化食堂』という名称も、沖縄県宜野湾市普天間の丘の上で、沖縄にまつわる食、人、アートが融合したカフェとして18年間営業し、惜しまれつつ閉店した「カフェユニゾン」のコンセプトであり、店主である三枝克之さんに許可をいただいて使っています。

 

既存市場に対する逆張り戦略として

『沖縄文化食堂』の開業にあたって、もう一つ意識したのは、既存のデリバリー市場の商品に対する逆張り戦略です。Uber EATSなどのデリバリーサービスを利用したことがある方なら分かると思いますが、ページを開けて目に飛び込んでくるのは、揚げ物、肉料理、丼モノなど、いわゆる「ガッツリ飯系」や「茶色い食べ物」です。

フードデリバリーはとても便利なんですが、一人暮らしの女性や、健康のために食生活に気を遣ってらっしゃる方、小さなお子様がいらっしゃる家庭が普段使いとして利用するには、いささか料理のジャンルやメニューが偏っている印象です。

沖縄料理には、三つのルーツがあります。一つ目は、琉球王朝時代の宮廷料理で、薬膳的な要素を持つ野菜や交易で得た貴重な食材を使った料理、二つ目は、戦前までの家庭料理で暮らしに根ざした島野菜や伝統的な製法による発酵食品を多用した料理、この二つは、「命薬(ぬちぐすい)」と呼ばれる医食同源の思想に根ざした琉球料理とも呼ばれています。三つ目は、戦後の米国統治時代に端を発する、缶詰や加工食品を使った手軽な料理で、観光客にも人気の高いタコライスやポークたまごなどはこの範疇に入ります。

『沖縄文化食堂』は、フードデリバリーを利用していない、若しくは、利用頻度の低い「未顧客」と呼ばれる層の文脈を徹底的に分析し、上述の琉球料理の要素を色濃く受け継いだメニューをたくさん用意しました。いわゆる「逆張り戦略」です。実際、メニュー写真を通じて画面から伝わる印象も、普通のフードデリバリーとは違います。

フードデリバリーで成功するための定石とは真逆のことをやりまくったので心配でしたが、フタを開けてみれば、ゴーストレストラン業界で良しとされる平均月商を上回ってスタートしています。具体的には、先行していたタコライスのブランドと比べて、ユニークユーザー数はまだ少ないものの、利用頻度と客単価が高くなっており、仮説通り、ブランドを気に入った顧客が何度も利用している様子がうかがえます。やはり、「未顧客」の文脈にどっぷり浸かってマーケティング戦略を立案する大切さを感じています。

 

『沖縄文化食堂』は現在、汁物(かなえ)そば(さくら)の2ブランドを展開していますが、あと1ブランド追加する予定ですし、閉店してしまった老舗「食堂」の人気メニューなども復刻させたいと考えてます。さらには、デリバリーだけでなく、キッチンカーで都内の主要スポットへの出店も検討しています。ご期待ください。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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