火山噴火があっても増えたハワイの観光客

こんにちは。築山です。

政治情勢の影響による韓国人観光客の激減、増税、そして首里城の消失。2019年度は下期に入ってからの沖縄の観光業は苦戦する要素がテンコ盛りです。

そもそも、観光業というのは、特にリゾート地である沖縄の観光業は、台風による自然災害と繁閑期のギャップに加えて、このような不可抗力要因によって趨勢が決められてしまう性質の産業です。そうしたリスクを出来るだけ回避する方法は、以前にこのブログでも書きました。

 

噴火があっても増えたハワイの観光客

沖縄がお手本とし、客数こそ同規模ながら、観光収入では3倍もの差をつけられているハワイ州は、2018年5月にハワイ島のキラウェア火山噴火という大きな自然災害があったにも関わらず、その年の州全体の観光客数は前年104%と増加しています
下のグラフを見てもらえれば分かりますが、ハワイ島がダメでも、噴火前の貯金と、噴火後も他の島がしっかり振替先になっているんですね。自然災害(噴火)がハワイ旅行の阻害要因にはならない…これこそがハワイ・ブランドの強さだと思います

 

HTA(ハワイ州観光局)がやっていること、沖縄との違い

ハワイ州観光局(Hawaii Tourism Authority:HTA)は、州政府から委託を受けてマーケティングやプロモーション活動によるブランディング、統計数字の公表などハワイの観光業全般に関わる業務を行う機関です。

彼等の観光戦略の基本には、①持続可能な成長と魅力ある観光地のために文化と環境の保護を優先すること②定量目標として観光客数ではなく観光収入と経済貢献度を指標としていること③定性目標として観光客満足度と同じくらい住民の満足度が重要視されていること、の三つがあります。
彼等の財源は、観光客が支払う10.25%という高額な宿泊税です。つまり、HTAは国や州から補助金を一切貰わず、ハワイ観光業の付加価値を上げ、売上のロイヤリティだけで活動する「自ら稼ぐ組織」なのです。


これに対して、沖縄の観光戦略については上述のような明確な指標や優先順位は存在しておらず、環境共生型観光地に関しては「遅れている」と自己評価しています。また、沖縄のHTAに相当する組織である沖縄コンベンションビューローの自主財源は全体の16%しかありません。

 

 

HTAによるハワイのブランディング

上述のように、キラウェア火山の噴火があってもハワイ州の観光客が増えた要因は、下記のようなHTAによる地道で継続的なブランディング活動にあります。

ハワイと火山との関係:ブランド・ストーリーの存在

そもそも、ハワイは火山活動によって出来た島嶼郡であり、火の神ペレの神話に象徴されるように、火山はハワイの歴史文化に欠かせない要素です。また、火山活動によって創られた壮大な自然風景はハワイの重要な観光資源であり、そこに自然災害というネガティヴな要素は皆無です。
そして、HTAや地域住民は畏怖と敬意の念を持って火山と接しており、そうした情報発信をすることで、ハワイ島は「生きている神々の島」という孤高の存在として世界中の観光客を惹きつけており、噴火が鎮静化すれば、さらに観光客は増えるでしょう。

島ごとに異なる個性とブランディング

ハワイには、オアフ、ハワイ、マウイ、ラナイ、モロカイ、カウアイという6つの島がありますが、それぞれの個性を活かしたブランディングをしています。
例えば、オアフ島はビギナーからリピーターまで楽しめるハワイの中心であり、マウイ島は消費額が高く、ゴルフ場やリゾートホテルが充実しており欧米の富裕層向け、カウアイ島は自然の宝庫なのでアクティヴ・シニアのトレッキングやアウトドアの大好きな若年層に向け…というようにHTAは明確なターゲティングをしています。
ハワイ島の噴火後、マウイ島とカウアイ島の観光客数前年が伸びたのは、こうしたマーケティングの成果として、この二島が振替先なってハワイ島の観光客ニーズを満たしたことを証明しています。
沖縄にも様々は島がありますが、こうした個性とターゲティングが観光客に分かる形で明確に出来ているかというと、そうではありません。

観光客と一緒に作るレスポンシブル・ツーリズム

沖縄をはじめ、世界の観光地でも問題になっているオーバーツーリズムに対しても、ハワイは明確な方針と情報発信などで対応しています。
まず、ハワイでは住民や自然環境へのマイナス影響を計算し、クルーズ船の受け入れを制限をしているそうです。上述の基本方針②にもあるように「来るもの拒まずではなく、ハイバリュード・カスタマーに来てもらうために、マスではなくターゲット・マーケティングをしている」(HTA幹部)とのこと。ここが
沖縄とは大きく異なります。
次に、HTAは、こうして決められたターゲットに対して「レスポンシブル・ツーリズム」を提唱しています。これは、従来の、観光地や観光業者らが中心となって考えた「サステナブル・ツーリズム」から更に進んで、観光客自身にも責任を負ってもらう、つまり観光客と一緒に作る観光業です。
「旅行者が地元の考え方や行動を共有し、それを尊重することで、地元に根づいた観光が可能になり、本物のハワイアンカルチャーに触れることができるようになる。いわば関係性の観光」(HTA幹部)というものです。
実際、ハワイでは珊瑚に有害な化学物質の入った日焼け止めを法律で禁止しますし、動物に触れず、離れて観察する距離まで細かく規定した啓蒙活動と機内ビデオをはじめとした情報発信を行っています。
沖縄の恩納村も『サンゴの村宣言〜世界一サンゴにやさしい村〜』を掲げていますが、行動計画を見る限りハワイのような積極的且つ具体的行動は規定されておらず「世界一」を語るには疑問の残る内容です(「キャラクター作成」って必要ですかね…?)。


観光客に不便をかけることがあっても、それが結果的に彼等に素晴らしいバリューをもたらす自然環境やハワイ文化の保護に繋がる。それを理解して行動できる人だけをハワイの観光客と認める…こうした
レスポンシブル・ツーリズムの提唱は、まさにブランディングそのものであり、これが沖縄の3倍もの観光客消費額と10.25%という高額な宿泊税の根拠となり、それを理解して支払う観光客が増えているという事実を、沖縄も見習うべきでしょう。



沖縄も、ハワイのように、自分たちだけでなく、
観光客と一緒に観光地としての価値を上げられるか?そのために、顧客ターゲティングを行い、その顧客から共感を得られるような行動を真剣にやる必要があります。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

コンサルティングのご相談、お問い合わせは…

ご相談、お問い合わせ