こんにちは。築山です。
コロナ禍による暗い話題が多い中で、奄美・沖縄の世界自然遺産登録と、NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』の制作・放送決定は、沖縄にとって嬉しいニュースとなりました。
20歳以上の県民や、長く沖縄に住んでいる方は記憶にあると思いますが、この状況は、2000年に沖縄サミットが開催され、2001年にNHKの連続テレビ小説『ちゅらさん』が放映されたことで、沖縄への観光客や移住者が増えた、いわゆる「沖縄ブーム」が起こったときに似ており、実際に、当時の状況を重ねて沖縄の観光業復活を期待する人や地元メディアの反応を多く見かけます。
沖縄ブームが去った後に残ったもの
しかし、振り返ってみると「沖縄ブーム」は2004年以降急激に下火となり、世の中から消費され尽くした後に残ったものは、2割も低下した観光客1人あたりの消費額や県産品の在庫の山、回収困難になった設備投資などでした。県内企業の廃業・解散数も、2006年から倍増しています。
同じ轍を踏まないために…
ドラマや映画などのロケ地として知名度を上げること自体は否定しませんが、一過性のものとして終わらせてしまうのか、それを機に地域ブランド力の向上に繋げるかは、その地域の行政や民間企業のマーケティング力が大きく影響します(実際は、殆どが前者です)。アフターコロナの観光業や県産品販売に向けて、沖縄が20年前と同じ轍を踏まないためにどうすべきかを少し考えてみます。
① 観光客の殆どはリピーター ⇒ 表層的な魅力訴求では不十分
2000年からの20年間で、沖縄の観光客数は450万人から2倍以上に増加し、1,000万人を超えてハワイと同規模になりました。今や、沖縄を訪れる国内客の9割弱はリピーターで、4人に1人は10回以上訪れている人です。ちなみに海外客でも4割弱はリピーターです。
これは何を意味するかというと、もはや沖縄の表層的な魅力訴求では観光客の満足度は上げられないということです。特に10回、20回と訪れているような観光客の中には、県民よりも沖縄に詳しい人はザラにいます。
こういった人たちは、もはや「美ら海水族館」へは行かないでしょうし「ゴーヤーチャンプルー」も食べ飽きてるでしょうし「ちんすこう」や「紅芋タルト」をお土産に買って帰ることもないでしょう。観光客へのアンケートで食事や宿泊施設、文化体験や土産物に対する期待度や満足度が5割を切っているのがそれを裏付けています。
こういった「沖縄のエキスパート」に限ったことではなく、インスタグラムをはじめとしたSNSを見れば、今や沖縄旅行者の関心事は、観光客が行かない場所・ガイドブックに載っていない場所へ行くことであり、ロコ(地元の人)が食べているものを食べることであるのが分かります。観光とは「非日常」だけでなく「ディープな日常」を体験することでもあります。
実は、サービスを提供する側が、皆が同じ時期に休み、同じものを見ていた昭和の集団旅行の概念から本当の意味で自由になれていないのかもしれません。「海だけ / 夏だけ」を旅行動機にするような、沖縄の表層的な魅力訴求から脱却するために、どれだけ自分たちの島のことを理解し大切にしているのか?…コロナ禍の今こそ、改めて振り返る時期だと思います。
② 若い層ほど「沖縄らしさ」だけでは通用しない
下記グラフは、ある沖縄県産品のサンプリングを東京で行ったアンケートを年代別にまとめたものです。その商品を試した時の体感(美味しい・不味い)や、価格とのバランスなど、商品そのものの評価は20代だけが突出して高く、逆に、その商品の持つ情緒的価値(沖縄らしさ)への評価は、20代は極めて低く、60〜70代が高いことがよく分かります。
この結果には『世代別の沖縄に対する心理的距離』が作用していると考えています。つまり、60〜70代が若い頃の沖縄は「米軍統治下にある外国」であり、40〜50代にとっての沖縄は「日本の遠い南の島」であるのに対して、20代にとっての沖縄は、生まれたときから「安価で気軽に行けるビーチリゾート」であり、沖縄のモノや情報へも容易にアクセスできる環境にあります。
つまり、若い層ほど「沖縄らしさ」だけでは通用しなくなっていることを、このアンケート結果は示しているのです。若年層に沖縄へ来てもらうためには、やはり我々自身が、この島のことを本当に理解し客観的に評価することから始める必要がありそうです。
ステレオタイプなイメージとの「闘い」
我々自身が、この島のことを本当に理解し客観的に評価することから始めるにあたって障害となるのが、沖縄に対するステレオタイプなイメージとの付き合い方です。
「あったかくてゆったりと時間が流れている気がして、人もあたたかくまったりしていてとても素敵なところ」
「広い空ときれいな海、人のあたたかさに、故郷でもないのに空港に着くと勝手にいつもホッと心が癒やされ落ち着きます」*NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』出演者への質問「沖縄に対する印象」の回答より
現在の沖縄には全国ワーストの県民所得や全国平均の2倍もある子どもの貧困率、階層間の激しい格差と分断、やはり全国ワーストのDVや離婚率、高い肥満率と自殺率など、さまざまな経済・社会・健康課題が山積しており、「ゆったり / まったり / 人のあたたかさ / 心の癒し」的情景は、もはや過去の沖縄のステレオタイプなイメージに過ぎないことは、このブログを読んでくださっている方々は十分ご存知かと思います。詳しくは、社会学者で戦後の沖縄社会を研究されている岸政彦教授他の書かれた下記の本に書かれています。
勿論、コメントしている本人に他意が無いことは分かっていますし、それを責めるつもりもありません。問題なのは、「外」からのステレオタイプなイメージを「中」がそれに合わせて振る舞うことで再生産・強化されてしまい、さまざまな課題を自分たちで曖昧にする危険があることです。
例えば、全国平均の2倍もある子どもの貧困問題は、抜本的な解決を目指して行政等が積極的に政策立案〜実行すべきものであり、もはや「ユイマールの精神に根差した地域コミュニティ」に期待する段階ではありません。
「外」からのステレオタイプなイメージに対しては、ある程度受け流しつつ、時には訂正しながら課題を見失わないようにすること、これは自分たちとの「闘い」であると言えます。
築山 大
琉球経営コンサルティング