こんにちは。築山です。
沖縄が受けている一括交付金や政策金融、税制優遇や高率補助などの根拠となる沖縄振興特別処置法が来年3月で期限を迎えます。同法は、沖縄が本土復帰した1972年から施行されている10年の時限立法で過去4回延長され、約13兆円の国税が投入されてきました。
県は「沖縄の特殊事情から生じる課題がいまだに解消されていない」として来年度以降も継続を求めていますが、政府の一部からは「単純延長はあり得ない」という意見も出ており、県内市町村長からは「継続なしに予算が組めない」などの声も挙がっているそうです。
しかし、コロナ禍によって全国の地方公共団体の財政が逼迫する中で、沖縄県だけが変わらず従来通りの補助金を受け取ることは(いくら「特殊事情」があっても)難しいように思えます。
人口あたり受取額1位の国庫支出金
全国の地方公共団体に交付されている補助金(地方交付税+国庫支出金:沖縄県は上述の振興税もここに含まれます)の人口あたり受取額を見ると、沖縄県は、地方交付税は全国16番目ですが、国庫支出金は全国1位で2位の島根県の1.3倍と突出して高くなっており、総額では全国5番目に高く、同じ人口規模である滋賀県の2.2倍です。
財政依存型経済の帰結としての低い労働生産性
県は、沖縄振興計画である『21世紀ビジョン』の柱の一つとして「強くしなやかな自立型経済の構築」を掲げています。
自立型経済とは、付加価値を創り出して対価を得ることで労働生産性と利益を上げ、それを所得に反映し消費や再投資を活発にすることで地域経済のサイクルを回すことです。付加価値を創り出す原動力はマーケティングに基づく市場競争です。
沖縄経済を産業別に見て特徴的なのは、上位が建設、公務、教育、医療・福祉という公共性の高い産業で全体の約4割を占めていることです。これらは市場競争よりも政策や補助金の影響を受ける財政依存型の産業です。しかも沖縄県の建設業と公務の割合は全国平均の2倍以上、教育と医療・福祉の割合も全国平均の約1.4倍です。観光関連産業が注目されがちな沖縄県ですが、実はガチガチの財政依存型経済であり、その源泉が上述の全国5番目に高額な補助金というわけです。
市場競争よりも政策や補助金の影響を受ける財政依存型の産業では、付加価値を創り出して対価を得る合理性は乏しくなりますから、結果的に労働生産性は上がり難くなります。労働生産性が上がらなければ所得は上がりませんから自立型経済は実現しません。沖縄県の労働生産売上は全国平均の7割以下です。
ちなみに、本土との社会資本の格差是正を目的として土地開発と公共事業中心に行われた沖縄振興策も、2012年の第4次計画から自立型経済の基礎整備に「路線変更」したはずですが、なぜか公共事業費は増加の一途を辿り、沖縄振興税に占める公共事業費は1.4倍に、沖縄県の産業に占める建設業の割合も2.3倍に増えています。そして、その代償として沖縄本島の自然海岸の55%が姿を消し、今後は老朽化した公共施設の維持に年間326億円が必要となるそうです。
県外から稼いだ所得の倍が県外へ流出するザル経済
以前にこのブログに書いて話題となった、観光業収入の増加が地元経済に還元されない実情や、沖縄のIT産業は3分の2が県外企業でその実態はソフトウェア開発の下請けやコールセンターに安価な労働力を提供する生産性の低い産業(労働生産売上は全国の半分)などに象徴されるように、沖縄の経済政策の評価軸が「どれだけの付加価値を生み出したか?」ではなく、依然として「どれだけの雇用に繋がったか?」から脱却できていません。「労働生産売上 = 付加価値売上 ÷ 従業員数」なので、当然ながら労働生産性は下がります。
自立型経済の定義の一つは「経済サイクルの循環」ですが、こうした状況の結果、沖縄経済は循環するどころか県外から稼いだ所得の倍額が県外へと流出しているザル経済です。
この「倍額流出」という状況は、沖縄県が離島である事情だけでなく上記の産業構造も影響していると思われます。つまり、域内に「モノやサービスが無い」だけでなく「求めるレベルのモノやサービスが無い」ということでもあります。
稼いでも稼いでもラクにならない県民生活
離島である沖縄県にとって、所得流出と同じくらい問題なのが物価上昇です。域内調達が出来ない事情と競争のない閉鎖的な市場環境に、輸送コスト等が加わることでモノやサービスの値段は上がりやすくなります。
実際、沖縄県は他の地域と比べて所得の上昇率を物価の上昇率が超えており、特に生鮮品の消費者物価指数は東京都23区よりも高いのは有名な話です。
労働生産売上と所得には一定の相関関係があります。低い労働生産性が故に所得は低く、そこに物価の上昇が追い討ちをかけることで、沖縄県民の生活はなかなかラクになりません。こうした状況では消費や投資が活性化しないので、やはり「経済サイクルの循環」の実現は難しいでしょう。
沖縄が経済的に自立するために
繰り返しになりますが、自立型経済とは、付加価値を創り出して対価を得ることで労働生産性と利益を上げ、それを所得に反映し消費や再投資を活発にすることで地域経済のサイクルを回すことです。沖縄の場合、それを阻害しているのは、財政依存型産業の比重の高さ、付加価値よりも雇用に重心を置いた経済政策の評価軸、その結果としての労働生産性と給与の低さです。
従って、沖縄が経済的自立を遂げるために必要なことの一つは、財政依存型経済からの脱却と補助金運用の適正化です。本来、補助金というのは事業性のない社会制度を運用したり、社会課題の抜本的解決のために使われるものであって、利潤追及をする事業で赤字を補填するために使われるものではありません。
沖縄振興税に関連する酒税の軽減措置について、県酒造組合とオリオンビールが(おそらく初めて)その終了時期について言及したことは、自立経済を目指す第一歩として重要です。特に、利益の8割が補助金であるオリオンビールの社長自らが「5年で卒業」と発言したことは評価されるべきだと思います(残念ながら、その直後に退任してしまいましたが…)。
このように、長期的かつ過剰な補助金支援を受けてきた沖縄の企業や財政依存型の産業が、自ら成長戦略を描き、全国や世界の市場で健全な競争をして付加価値を創り出すことが、沖縄の経済的自立に寄与するのだと思います。
築山 大
琉球経営コンサルティング