沖縄の経済的自立と補助金

こんにちは。築山です。

下図は、沖縄県と石川県にある、ある同種の公共施設の、指定管理会社が公表している収支を比較したものです。

石川県は沖縄県と同じく人気観光地で、年間の観光客数は2,500万人(沖縄県は1,000万人)、人口も沖縄と同規模の114万人(沖縄県は145万人)ですが、石川県の施設入館者数は沖縄県の6倍もあります。ちなみに、両施設の敷地面積、延べ床面積はほとんど同じです。

まず、収入部門を見ると、沖縄県の施設は、本業である入館料収入で稼げておらず、県から出る指定管理料(補助金)に過度に依存しています。つぎに、支出部門を見ると、施設維持費の割合が高く、人件費と事業費を圧迫していることが分かります。沖縄県の施設入館者数は石川県の6分の1にも関わらず、指定管理料金は石川県の8割(入館料収入の約3倍)ほど貰っています。それにも関わらず、沖縄県の施設は約2,500万円の赤字です。

本業で稼ぐポイントは、付加価値を上げて入館料収入は増やすことです。そのためにはある程度、人件費と事業費にお金をかける必要がありますが、沖縄県の施設の人件費は、石川県の施設の半分以下で、事業費にいたっては4分の1です。これでは人材は育ちませんし、良い企画が生まれないのも当然です。その費用は、経費の60%を占める施設維持費を見直すことで捻出すべきでしょう。コストカットではなく、コストバランスを適正化することで赤字から脱却するのが定石です。ちなみに、前年度は約5,700万円、前々年度は約4,200万円と3年連続の赤字でした。なまじ身の丈に合わない指定管理料(税金)が入ってきてしまうが故に、真剣に経営改善が進まないのではないか?とさえ思ってしまいます。

 

補助金で公共施設を作り、その維持にまた補助金を使う

歴史的に見て、沖縄県には『本土との格差是正』を目的として、復帰後の1972年から2011年までに政府から振興開発事業費として総額9.9兆円の税金が投じられ、そのうち8.5兆円が公共事業に使われました。その結果、公共施設の人口あたりの延床面積は全国4位で、同規模人口地域平均の約1.5倍あります。ちなみに、公共事業による埋立てや護岸工事などによって、沖縄本島の自然海岸は今や45%しか残っていません

2012年以降は『民間主導の自立型経済の構築』を目的として、振興計画の主体者を沖縄県に移管し、2020年度までの8年間でさらに3.2兆円の税金が投じられました。しかし、沖縄県の歳出を見ると、公共施設の築造や維持に使う「普通建設費用」と「維持補修費用」が全体の4分の1を占め(全国平均の1.7倍)依然として公共事業依存から脱しきれてない様子が見て取れます。余談ですが、この公共事業自体も問題を抱えていたりします

公共施設は作って終わりではなく、その維持にも費用がかかります。歳出の増減を見ると「普通建設費用」は2013年度から2016年度にかけて増加しました。その後「維持補修費」が2016年度から急増しています。つまり、沖縄県の公共施設に関する支出が、建設から維持へとシフトしていることが分かります。ちなみに、沖縄県は、これまでに建てた公共施設の維持補修費用として、ハコモノだけで年間326億円が必要と見込んでいます。

 

沖縄の経済的自立と補助金

『経済的自立』とは、事業で継続して利益を出し、所得と雇用を増やし、消費に結びつけることで経済サイクルを回すことです。そして本来、補助金というものは、事業性のない社会制度を運用するためにあります。事業に補助金が使われる場合というのは、例えば、市場環境や技術革新の急激な変化への対応に迫られ、事業の推進力を高めるために使われる場合であり、それを当てにするべきものではありません。補助金がなかったとしても利益を出す仕組みが作られるべきです。

ちなみに、上述の施設は、現状の指定管理契約終了後の応募がゼロで、県は次年度からの指定管理料を3,000万円増額して再公募しています。これでは、公共施設を民間運営によって補助金運用を効率的に行う指定管理制度の目的に全く逆行しています。このように、補助金は、使い方を間違えると経済的自立はむしろ遠のきます。沖縄県には、全国平均の3倍もある子どもの貧困率など、その抜本的な解決のために補助金を使うべき問題が他にも沢山あるのです。

 

県民生活の中にも行き渡っている補助金

例えば、車のガソリンや、飲んでいるお酒は、全国で沖縄県民だけが安く購入することが出来ますが、その原資は補助金です。特に、お酒の補助金(酒税法の軽減措置)に関しては、県内酒造会社の雇用維持や離島地域の活性化に寄与してきた一方で、27年連続全国ワーストだった飲酒運転事故や、全国ワーストの肝疾患死亡率や全国上位の糖尿病死亡率DVや粗暴犯摘発者の半数が飲酒状態であるなど、県民の社会問題や健康問題の温床になっている感は否めず、間接的に沖縄の経済的自立の阻害要因になっていると言えます。

また、プロ野球のキャンプや県のイベントなどで使われる那覇市のスタジアムや、人気バスケットボールチームのホームとなる沖縄市のアリーナ建設費用も補助金によって建てられていますが、これは通常のものとは異なり「特定防衛施設周辺整備調整交付金」という防衛省が管轄する補助金で、県を通さず市町村が直接防衛省へ申請し、承認を得る性格のものです。

 

沖縄の経済的自立のための新たな振興計画

沖縄県には、復帰から現在までの47年間で13兆円もの公金が投入されたにも関わらず、出来上がったのは全国ワーストの平均所得と労働生産性、そして所得格差の激しい社会です。問題なのは、公共事業や補助金そのものではなく、その使われ方だと思います。

現状の沖縄振興計画は来年3月で期限切れとなりますが、県は「沖縄の特殊事情から生じる政策課題がいまだに解決されていない」として来年度以降も沖縄振興特別処置法と沖縄振興予算の継続を求めるべく次期計画を立案しているそうですが、ここで列挙した補助金の内容、その使われ方や課題について話しても、県民の多くが知らなかったことに驚きました。

2月末まで県民意見の公募をしているようなので、この機会に、沖縄の経済的自立と補助金の使われ方について調べて考えてたり、意見を出してみることをおすすめします。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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