こんにちは。築山です。
地元紙の報道によると、沖縄県は違法な残業率が全国よりも9.4ポイント高く、その原因を「他県より中小・零細企業の割合が高いため」としています。
この「沖縄の企業規模の小ささ」は、この問題を語る時に必ず用いられる『話法』ですが、よく調べてみるとこれは間違っていることに気付きます。
数字を誤って解釈
おそらくこの『話法』は、沖縄の事業所あたり従業員数が8.7人(全国40位)と少ないことを根拠にしているのだと思います。しかし、この数字の内訳を見ると、沖縄は個人事業主(=従業員1人)の割合が突出して高いこと(26.5%で全国1位)、特に従業員規模50人以上の事業所あたり人数が少ないこと(125.7人で全国21位)による影響が大きく、沖縄が他県や全国平均と比べて中小・零細企業の割合が高いわけではないことが分かります。
そもそも個人事業主には違法残業という概念は発生しません。そうなると、沖縄に違法残業が多い理由は「経営者の規範意識の欠如や組織風土の要因が強い」ということが推察されます。
経営者の立場が圧倒的に強い沖縄
それを裏付けるデータとして「労働組合の組織率」があります。これによると、全国平均16.7%に対して沖縄は9.3%で、奈良県の9.1%と並んでほぼ全国ワーストです。この数字と緩やかな相関があるのが平均月給で、沖縄は26.2万円で全国ワースト4位です。
時代と共に労働組合の役割は変化しているものの、賃金をはじめ労働条件や労働環境などの改善を目指すのが労働組合の目的ですから、その組織率が低いと労働者よりも経営者の立場は強くなりがちです。企業規模が小さいほど労働組合の組織率は低くなる傾向にありますが、上述のように、沖縄の中小・零細企業の割合は他県と大きくは変わりません。加えて、沖縄の失業率は全国ワーストなので経営者の立場が圧倒的に強い地域になります。
そういった背景を踏まえると、沖縄の賃金が低いこと、違法な残業が多いことの理由の一つは、規範意識の欠如した経営者や組織風土の要因と言っても過言ではないでしょう。余談ですが、最低賃金の賃上げに関しても、沖縄の経営者団体はコロナ禍を理由に発効日の延期を申請しています。全国でも事例のない、厚生労働省も「聞いたことがない」と困惑するほどの出来事でした。
コロナ禍で苦しいのは他の地域も同様ですし、コロナ禍以前の沖縄は全国一の経済成長率であったにも関わらず最低賃金は依然として全国ワーストのままでした。そんな中で、全国で沖縄だけが賃上げの延期を申請することに違和感を禁じ得ませんでした。
沖縄の間違った『話法』が問題解決を難しくする
この「企業規模の小ささ」と同様に、沖縄で使われる『話法』として「沖縄の労働生産性が低いのはサービス業の割合が高く、製造業の割合が低いから」というものがあります。
しかし、これもよく調べてみると、沖縄は医療・福祉業を除く全産業において労働生産売上が低く、仮に製造業や他産業の割合を全国平均並みにして計算し直しても労働生産売上は依然として全国平均以下です。
さらに言うと、宿泊・飲食サービス業の労働生産売上は全国平均並み(全国比0.95)で、金融・保健業(全国比0.61)、情報通信業(全国比0.57)、学術・技術業(全国比0.38)といった、本来であれば労働生産性の高い産業がことごとく低いことの影響の方が強いのです。
このように、沖縄の間違った『話法』は思考停止を誘発し、問題解決を難しくします。違法残業は「小さい企業が多いから仕方がない」のではなく、規範意識の欠如した経営者や企業への行政指導や罰則で矯正すべき事柄であり、生産性の低さは「産業構造が違うから仕方がない」のではなく、それぞれの産業や企業の企業努力と創意工夫で上げることができます。
間違った『話法』を使ったり『安易な努力に逃げる』ことで思考停止にならず、数字に基づいて課題と向き合うことで改善できるのです。
築山 大
琉球経営コンサルティング