移住者による地方の経済的上昇
沖縄は、移住希望者が多く、日本で最も開業率が高い県です。沖縄への移住意向に関する調査報告によると、沖縄への移住希望者で創業意向を持つ人の割合は、他地域への移住先希望者のそれと比べて1.4倍高くなっています。それらを踏まえて、さまざまなスタートアップ支援や街づくりの取り組みがなされています。
しかし、フタを開けてみると、移住希望ランキングでの上位とは裏腹に、実際に沖縄へ移住する人の数はそれほど多くなく、三大都市圏を除いても毎年11〜13番目。増加基調にはありますが、それ以上に転出数が増えているので、社会増減ではコロナ禍の一時期を除けばここ10年は減少傾向です。また、移住後の追跡調査(沖縄県に限らない)を見ると、移住創業者のビジネスは、その50%の商圏が同じ都道府県や市町村内に留まり、個人&事業所向けのサービス業と情報通信業で半数を占め、月商50万円以下の小規模事業者が63%、赤字基調の事業者も43%あります。
もちろん、移住創業者は、少なくとも自分一人(+数人)の雇用を地方で生み出しており、それは素晴らしいことですが、あくまでこの記事のテーマである「地方の経済を押し上げる」という基準で見ると程遠い、いわゆる「スケールしづらい」のが実情です。
そもそも、日本全体の生産年齢人口自体が地盤沈下のように減少している現在の状況では、限られたパイを奪い合う「量の移住政策」ではなく、地域の経済を牽引できる規模のビジネスを創業したり、そうした影響力を持つ人たちの移住先として選んでもらう「質の移住政策」が必要であり、他の地域と比べて沖縄はそれがやりやすい環境にあると思います。実際、東証一部上場企業の社長が移住したり、同じく沖縄に移住した日本を代表する音楽家が、水耕栽培農場や有機食品店、保育園の設立を通じて地域貢献をしています。
「質の移住政策」に必要なもの
上述の、沖縄への移住意向に関する調査報告によれば、沖縄に移住を希望する人たちの特徴として、地縁のない移住(Iターン)と二拠点生活での希望者が77%も存在し、これは他地域に移住を希望する人たちの1.9倍もあります。また、移住後の追跡調査によれば、移住後に創業した人のうち、地縁のない移住者のビジネスの方が商圏や売上規模がやや大きくなっています。
こうした地縁のない移住創業者が、移住先を選んだ主な理由で、地縁のある(郷里である・親族が住んでいる等)人より高い項目は、交通の便<1.5倍>、文化や風土に惹かれた<1.5倍>、事業に適した場所<1.3倍>です。沖縄への移住希望者になると、選んだ理由は、過去に旅行等で訪れて気に入った土地だったから<2.7倍>、移住先に最も求めるものは、自然の豊かさ<2.3倍>でした。
こうした地縁のない移住創業者のデータを見ていると、彼等の属性や志向が、ある活動を行っている人たちにとても似ていることを思い出しました。それは、ワーケーションです。
沖縄でワーケーションを実践している人は、確固としたライフスタイルを確立しており、それを実現するために必要な仕事上の裁量権や高収入を得られる職業や立場に就いています。ダイビングや釣りやトライアスロンなどを趣味とし、好奇心が強く、人生や仕事に対して能動的で、自分たちが求めるものを得るために、何度も訪沖して情報収集をするなどの手間を惜しまない人たちであることが、様々なデータ分析から分かっています。
単なる滞在先ではなく、その土地に関わったり、地域の持つ価値を自分たちの仕事やライフスタイルに取り入れようとさえするので、そういった「ポジティヴな関係人口」と繋がり、彼等に移住や起業を選んでもらう環境を作るほうが、少なくとも企業誘致や大型投資をするより、確度とコストパフォーマンスが高いのかもしれません。
築山 大
琉球経営コンサルティング