琉球文化は発酵に支えられている

こんにちは。築山です。

沖縄は「うりずん」の季節になりました。年平均湿度が70%を超え、快晴日数が全国で最も少なく、夏は台風銀座となり、冬は風速10m近い北風が毎日吹き荒れる沖縄でいちばん過ごしやすく、築山が大好きな季節です。
「うりずん」の語源は「草木が潤い始める」の意味だと言われています。琉球の時代には、自然を尊重して大切にし、こんな詩的な言葉を生み出すような人たちが沢山いたんでしょうね。

築山が毎日散歩する、自宅から徒歩10分の場所にあるビーチの景色もこんな景色になりました。

そんな琉球(沖縄)文化を語る上で『発酵』はキーワードの一つです。個人的には「琉球(沖縄)文化は発酵の文化」と言ってよいと思います。温帯気候の内地(本土)とは違って亜熱帯気候に属する沖縄は、琉球王朝時代から発酵をうまく利用した文化が根付いています。それらについて、いくつか紹介したいと思います。

 

1. 泡盛

©photohito:foovers

沖縄の発酵文化で、何よりも最初に思い浮かぶのが泡盛です。約600年の歴史を持つ日本国内最古の蒸留酒といわれ、タイ米と黒麹菌によって作られます。原料からして「外国」ですね。その後、薩摩藩が製法を真似て日本米と白麹菌で作ったものが焼酎となりました。
泡盛のすごいところは、西洋の蒸留酒とは異なり、開封された後も泡盛の成分そのものが科学的に変化して熟成することです。「仕次ぎ」と言って新しい泡盛を継ぎ足して熟成させる方法が一般的で、3年が経過して味がまろやかになったものは「古酒」(クース)と呼ばれています。
泡盛に使われる黒麹菌は、太平洋戦争で激しい地上戦の末に焦土となった沖縄から消えてしまいましたが、日本の発酵学の権威である東大の坂口名誉教授の研究室に保存されていたことが分かり、それを譲り受けて戦前の泡盛の味が復活したという感動的なエピソードがあります。

 

2. 豆腐餻(とうふよう)

©有限会社インターリンク沖縄

豆腐餻は、泡盛を使って豆腐を発酵させた沖縄独自の発酵食品です。琉球王朝時代に交易をしていた中国の「腐乳」をルーツに持つ宮廷料理の珍味です。エダムチーズのような食感と風味を持ち、当然ながら、泡盛やお酒のツマミとして最適です。栄養価が高く、胃壁の保護作用を持つ健康食品の側面もあります。確かにクセのある味ですが台湾の「臭豆腐」より百倍は普通に食べられます。

 

3. チーズ

「沖縄でチーズ?」と思うかもしれませんが、発酵環境という意味では沖縄は最適です。問題は、原料の方だったりします。スターターと言われるチーズ菌が沖縄にはありません。
「The Cheese Guy」こと大英帝国ご出身のジョン・デイヴィス氏が、すべて沖縄産にこだわったチーズ作りの結果、辿り着いたのは上述の泡盛に使われる黒麹菌でした。黒麹菌はPHを下げミルクを乳酸発酵させる働きをするそうです。長い試行錯誤の結果、完成したチーズはその名も『琉球クラウン』。その他チーズに入る薬味もフーチバー(ヨモギ)やウコン(ターメリック)など沖縄産のものを使っています。

 

4. パン(天然酵母)

パン屋は全国どこにでもありますが、実は沖縄は人口あたりのパン屋店舗数が全国平均の2倍以上もあるという超激戦区なのです(人口1万人あたり店舗数:全国平均=0.83店、沖縄=1.75店)。特に、発酵に必要な気温と湿度が高い沖縄は、天然酵母を使ったベーカリーが多く、わざわざ観光客が訪れるような全国区の有名店もたくさんあります。
宮古島にある『空猫十字社』は、「人間の身体は食べたもので出来ている。パンは毎日食べるものだから、美味しくて安全で飽きのこないものであるべき」という信念のもと、ライ麦由来の天然酵母を使い低温長時間で熟成・発酵させて作っており、その風味豊かな美味しいパンは、ホテルや全国展開する有名飲食店でも使われています。

 

5. 藍染

©島藍農園

沖縄は昔から藍染の盛んな地域でした。藍染の染料を作る過程で発酵は重要な役割を果たします。本土の藍と違って、沖縄の藍は赤みがかった独特の風合いが特徴で、珊瑚礁が魅せるさまざま海の景色のように、いろんな紺の表情があります。
石垣島にある『島藍農園』は、化学肥料や除草剤など使わない土作りから育てたナンバンコマツナギという八重山諸島だけの木藍を、収穫、発酵、染料作り、染めから製品開発までを一貫して手づくりで行うという徹底したクラフトマンシップに貫かれたクオリティの高い藍染製品を創り続けています。

 

番外編:台湾茶(小琉球)

台湾は、その昔、石垣島のある八重山諸島を含めて「小琉球」と呼ばれており、その意味では琉球文化の一つと言えます。台湾の特産品であるお茶が、日本茶と大きく違うのは「発酵」という工程があることで、これが台湾茶独特の香りや旨味の源泉となっています。築山は台湾に行くと『有記名茶』という店でお茶を買い込んできます。


 

そもそも、発酵とは「ある物質を、微生物の働きを借りて変化させ、人間にとって有益なものを生み出す過程」と定義されます。それはまさに文化の成り立ちと同じではないでしょうか?。自然を尊重しつつも利用し、どちらも長い時間をかけて培われた人間の生活を豊かにしてくれるものです。

そして、これらの個性的で豊かな沖縄(琉球)の発酵文化は、特に欧米観光客にとって魅力ある観光資源になり得るものだと思っています。興味のある方は、築山が様々なデータを分析したり、海外でのヒアリングを基にした下記資料を読んでみてください。

また、築山のブログでは、沖縄(琉球)を知るために最適な本も何冊か紹介しています。

 

築山 大
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