こんにちは。築山です。
先日、沖縄県の海外事務所、北京、上海、香港、台北、シンガポール、韓国、6拠点の所長が一堂に会しての活動報告会に行ってきました。築山も今後、クライアントである沖縄企業の海外戦略に携わる可能性もある中で、新知事も公約に掲げていた「アジアのダイナミズムを取り込む」ためのヒントを得ることを目的に参加しました。
以前もこのブログで述べましたが、那覇を中心とした同心円図で見てみると、沖縄は東アジア諸国と日本との中間に位置しており、台北や上海をはじめ、内地(日本の本土)よりも近い都市もたくさんあります。
その昔、こうした地理的アドヴァンテージを活かした東アジア諸国との交易を収入源として450年続いた(徳川幕府より長い)琉球王朝の歴史を考えても「アジアのダイナミズムを取り込む」という言葉は、沖縄のポテンシャルを感じる響きだと思っていました。
実際、アジア経済はどれぐらい「ダイナミック」なのか?
会議参加前の予習として、これら6都市に、東京と沖縄が観光業で「お手本」とするホノルルを加えた8都市の一人あたりGDPを調べてみたのですが、それを見て愕然としてしまいました…。
成長率こそ、シンガポールや香港、ホノルルと同規模ですが、稼ぎ出している金額の桁が違い過ぎます(シンガポールの36分の1、台北の25分の1、上海の13分の1)。これでは「ダイナミズムを取り込む」どころか「ついていくだけで精一杯」の状態にしか思えません…。
何が違うのか?
これらの都市が、沖縄と比べて明らかに違うのは「活動の規模がグローバルである」ということです。中国は、世界一を誇る人口=内需とそれを背景としたグローバルな通商をしていますし、その他の東アジア諸国は、逆に内需が小さいが故に、ビジネスを成長させるために、その視点は「必然的に最初からグローバル」になる…ということです。
例えば、第二次産業の比率が高く、日本をはるかに凌駕する「ものづくり国」である台湾は、全世界の半導体の75%を生産しているそうですし、自転車メーカーのGIANTは世界的に有名です。シャープを買収して僅か1年で黒字化させたのも記憶に新しい鴻海精密工業はAppleのiPhoneをはじめ世界的企業から製品の生産を請け負っています。
「ダイナミズムを取り込む」ために…
結局のところ、沖縄が「アジアのダイナミズムを取り込む」ためには、そういった国々と同じ視点とレベルでビジネスが出来るか?…が全てだと思います。いきなりそのレベルになるのは難易度が高過ぎますので、少なくとも、そういった国々のグローバルな活動に「乗っかる」(台北事務所所長 談)ことが出来るための商品や原材料、サービス提供者として認められるレベルにはなりたいものです。
そのために、沖縄の企業や県民のやるべきことをずっと考えながら、各拠点からの発表を聞いていたのですが、誰でも思い付きそうな結論にしか行き着きませんでした。備忘録的にまとめると以下になります。
◼︎グローバル経済で通用する法則は二つに大別される
⇒ある程度の質のものを圧倒的に安い値段で売る
⇒どこにも無い、若しくは、圧倒的に付加価値の高いものを高い値段で売る
◼︎必要なのはマーケティングセンス
⇒相手国の事情をよく知る(現在とこの先のニーズ)
⇒自画自賛をやめ、外からの視点も取入れて自分達の付加価値を客観的に再編する
⇒トーナメント戦式ステップアップ(国内の評価〜相手国の評価〜アジアの評価)
◼︎実現には人材(=経営・マネジメント)が必須
⇒優れた人材を引き寄せる価値の提供(賃金、環境)
⇒優れた人材が活躍できる機会の提供(制度、慣習)
⇒優れた人材を育てる教育機関や企業の存在
◼︎これらの都市を見て、メリットとデメリットを把握した上でやる
メリット
⇒経済成長
⇒価値観の多様化
⇒厳しいが公正な競争原理作用
デメリット
⇒経済成長による土地や物価の高騰
⇒多様化の帰結としての摩擦
⇒競争原理の帰結としての格差拡大
残念ながら、ごく控えめに言っても、今の沖縄はこれらの条件を満たしているとは言い難い状況です。
しかし、上述の6都市や企業も、内需向けの小規模なビジネスからスタートし、やがて安価な人件費を武器として世界的な企業からのOEM、EMSを行うことで労働生産性を上げ、現在は自らが世界的なブランドになった…という過程を見ると、沖縄にも可能性はあると思います。
また、シンガポールのように、地理的アドヴァンテージ+税制優遇による積極的な外資誘致をテコに一気に労働生産性と国際的プレゼンスを高めるパターンもあります(沖縄県の独断でこれが出来るのかは置いておいて)。
もし、本気で「アジアのダイナミズムを取り込む」のであれば、むしろ、それを可能にする(=相手から選ばれる)ための経済的、制度的、人材的な基礎を沖縄が備えていることの方が重要だと思います。最初の挑戦は、全国最下位の労働生産性を全国平均並にするところからです。
そのためには、上述のようにマーケティングセンスを持つことが何よりも大切です。そしてその本質は「自分たちを客観的に評価できる視点」です。
例えば、沖縄の基幹産業である観光業は、客数こそ「ハワイ超え」に湧いていますが、各拠点の発表の中では「東アジアの人々にとって沖縄は、モルジブやプーケット、バリなど比べて安いから(仕方なく)行くビーチリゾート…」という厳しくも、納得せざるを得ない事実も挙げられていました。実際、沖縄の観光収入は、沖縄の魅力というよりも為替レートのボーナスによって増えた観光客の消費金額減少によって頭打ち〜減少の可能性があります。
沖縄が「お手本」とするハワイも含めて、これら「競合」ビーチリゾートは、世界中の旅行業界から優秀な人材を高給で引き抜き、多くの予算を割いて徹底したマーケティングと観光のグランドデザインを行い、世界中で営業活動を行っています。今後、沖縄が本気で海外からの観光を迎えて稼いでいく気があるのであれば、こうした「競合」と同じレベルの切磋琢磨が必要です。
追い打ちをかけるように、米中の貿易摩擦によって人民元と中国企業の株価が暴落しています。経済取引のパートナーとしても、観光客としても「お得意様」である中国の停滞と縮小は、沖縄や東アジア諸国にとって大きな影響を与えることは必至であり、早急な対応を迫られます。
経済成長によるデメリットへの覚悟
時として、耳の痛い客観的事実と向き合うだけならまだ良い方ですが、経済成長のダイナミズムには、必ず負の側面が付きまといます。
例えば、貧富の差を測るジニ係数という指標では(0.0〜1.0の間で示される:1.0に近いほど格差が大きい)、日本で最も貧富の差が大きいと言われる沖縄のジニ係数0.339に対して、香港は0.539、中国で0.467、シンガポールは0.463です。
また、沖縄に観光客数では負けたものの、観光収入では3倍稼いでいるハワイは全米一物価の高い州で消費者物価の上昇率は+2.5%です。最近の物価上昇が激しい沖縄の直近数値でさえ+1.8%ですから、その凄まじさが分かりますね。
経済成長のダイナミズムには、大きなメリットをもたらす一方で、こういったデメリットも発生することへの覚悟も必要となってきます。
冒頭でも述べたように、沖縄には交易によって栄えた琉球王朝の歴史的事実と、それによって培われた豊かな文化があります。築山は、その当時の沖縄(琉球)は、今のシンガポールや香港のような国際色豊かで活力ある場所だったのではないかと想像します。
その時代に多くの人々が持っていたであろう、外からの価値観や情報や人材を受け容れる柔軟性や、経済的合理性を身に付けて、再び沖縄が「アジアのダイナミズム」に入っていけるよう、築山は経営コンサル屋として沖縄企業や人々のお手伝いをしたいと思います。
築山 大
琉球経営コンサルティング