沖縄の好調な経済と低調な労働生産性

こんにちは。築山です。

新聞やニュースなどで、沖縄経済の好調が言われて随分経ちます。人口と観光客の増加による個人消費の拡大や観光収入の増加、公共投資を中心とする建設ラッシュなどを背景に、全国の約2倍の成長率が見込まれ、県の歳入も(被災地域を除いて)全国トップの伸びを見せており「外から見た沖縄経済」はまるで青天井の印象さえ受けます。

しかし、これだけの経済成長にも関わらず、平均賃金は全国最低のままですし(2016年:厚生労働省発表)、さらに離島ゆえの物価高(特に、食料物価指数は東京都内以上)も加わって、貧困率も全国一位のままです(2016年:山形大学の戸室教授レポート)。つまり、築山も含めた県民の「中から見た沖縄経済」は、外から見るそれとは全く乖離してるんですね。分かりやすく言うと「企業売上は確実に上がってるはずなのに給料が上がってない」という感覚です。これは、日本で働く人の多くが思っているかもしれませんが、数字で見ると沖縄は「それが一番顕著な地域」なのです。

 

賃金上昇のカギを握る「中から見る経済指標」としての労働生産性

こうした状況の要因はどこにあるのか?売上を「外から見る経済指標」だとするなら「中から見る経済指標」の一つとして労働生産性というものがあります。
これは、投入した元手(仕入、人、経費など)からどれだけの付加価値を生み出したかを測るもので、算出方法によって幾つかの種類があるのですが、このブログでは、経済産業省の「経済センサス」というデータを使って労働生産売上という指標で見てみます。

労働生産売上 = 付加価値額 ÷ 従業員数
付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 支払利息 + 賃借料 + 租税公課 ≒ 粗利額

労働生産性を上げるためにまずやるべきは、付加価値額を上げることです。付加価値額はざっくり言うと粗利益(売上総利益)とほぼ同義です。企業の経済活動の目的である営業利益は、ここから人件費や諸経費を差し引いた残りです。
つまり、付加価値額(≒粗利益)を上げることは「賃金(給与)の源泉を増やすこと」です。だから、労働生産性を上げることは賃金(給与)を上げるために重要なんですね。

 

伸びてはいるが、まだまだ低い沖縄県の労働生産性

まず、沖縄県の労働生産売上は伸びています。冒頭に述べたような好調要因で企業の売上と付加価値は上がり、そこに労働人口の減少も加わって雇用が拡大し従業員も増えています。全国的に労働生産性は116%と伸びていますが、沖縄県はそれを上回る120%で全都道府県の中で14位です。
しかし、労働生産売上の金額そのものを見ると残念ながら全国最下位です。全国の約7割で、1位の東京都の約半分、46位の宮崎県との差も30万円近く開いています。

 

沖縄の労働生産性が低い原因は、本当に「産業構造」なのか?

沖縄の労働生産売上が低い要因に関してよく言われるのが「産業構造が違う」というものです。確かに沖縄は、製造業の割合が少なく、宿泊・飲食サービス業や医療・福祉業の比率が高い地域ですが、離島という地域特性上、この産業構造を変えることは非現実的です。しかも、この二つの産業は、沖縄で唯一、労働生産売上とその伸率が全国平均を上回っており、むしろ優秀なんです。それより、この二つ以外全ての産業の労働生産売上が全国平均を下回っていることの方が問題だと思います。
さらに、労働生産売上とその伸率を掛け合わせて全国平均と比べてみると、沖縄の産業別の好不調がさらによく分かります。
これを見ると、散布図の左下の「労働生産売上も低く、伸びてもいない」にプロットされた5つの産業がもっと頑張ることが沖縄全体の労働生産性を上げるポイントです。しかも、この5つの産業のうち4つは沖縄の労働生産売上の1位〜4位で、沖縄全体の付加価値額に占める割合は、上述の好調な産業のそれとほぼ同じ約2割です。
ちなみに、この5つの産業の労働生産売上が全国並みに伸びるだけで、労働生産売上の金額は約400万円となり、都道府県ランキングは最下位から大きく上がります。

 

労働生産性を上げるためにやるべきこと

沖縄の労働生産性は伸びてはいるけれど、もっと伸ばす必要があることがわかりました。繰り返しになりますが、労働生産売上を上げるためにまずやるべきは付加価値額(≒粗利益)を増やすことです。
燃料価格の上昇による原料費や輸送費などの高騰、人手確保のための人件費上昇(これ自体は良いことですが)など、今後の経費増が不可避な現在の状況では、もっと付加価値額を増やすしか手はありません。

労働生産売上を上げる方法例
⇒ 付加価値額を上げる

① 過度な客数偏重を止め、客単価を上げる
② 売上の取りこぼし(機会損失、過剰な値引)を減らす
③ 売上貢献度の低いサービスを減らす(経費の割に)
⇒ 従業員数を減らす

①に関して代表的なのは、沖縄の基幹産業である観光業です。昨年の「観光客数のハワイ超え」に湧く沖縄ですが(2018年追記:その後ハワイが観光客数を上方修正し、沖縄の「ハワイ超え」は幻と成りました)、観光客1人あたりの使用金額は減少しており、この傾向が続くと2年後の観光収入は頭打ち〜減少に転じる危険があります。そもそも観光客増を牽引する外国人観光客の増加は、沖縄の魅力(付加価値)よりも為替レートのボーナス要因が大きいわけですから、過度な客数偏重を止めて、客単価(滞在日数)を上げる付加価値を生み出さないと、今後の安定成長は難しいでしょう。


逆に、上手くいけば、沖縄の観光業は日本でも有数の労働生産性の高い産業になる可能性があります。観光収入が沖縄の3倍もあるハワイの観光業の分析から、沖縄観光の付加価値額を上げ観光収入を上げるポイントを下記にまとめておきましたので、興味のある方は読んでみてください。

②については、実際にこれまでの沖縄企業へのコンサルティングで労働生産性を上げてきた経験から実感しています。これは①ともリンクする部分なのですが、例えば小売業において、客数指数の高い給料日後や繁忙日にわざわざ値引をしたり、意図や目的の曖昧な曜日セールを継続することで売上がジリ貧になったり、値引きをするにしても事前の仕入や品揃えが不十分だったために機会損失を出すことは、粗利額(≒付加価値額)を下げるだけでなく、客数対応のための人員増というダブルパンチによって労働生産売上は一気に下がります。

③に関しては、東京では高級スーパーでしか実施されていない袋詰めサービスが、沖縄のスーパーでは購買単価に関わらず一律で実施されていたのには驚きました。もちろん、小さな子供連れの方やお年寄りには良いサービスなので無くす必要はないとは思いますが、労働生産性の観点からは見直しても良いと思います。
余談ですが、様々な形状をした大量の商品を、潰さないように一瞬の判断でレジで袋詰めするには高度な技術と豊富な経験が必要です。築山は買った卵を何度も潰されました(笑)。これがちゃんと出来る人たちの賃金はもっと高くて良いと思います。

 

従業員を減らしたり、人件費を下げることは、結果的に労働生産性を下げる

計算上、従業員を減らしたり、人件費を下げることで労働生産売上は上がりますが、現状の経済成長下で従業員を減らすことは現実的ではないでしょうし、今後の人手不足にも対応出来ません。また非正規雇用を増やして人件費を下げても、従業員の離職率が高まり、熟練度の低い従業員が増え、結果的に労働生産売上は下がります。ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授による「賃金を上げることで過度な雇用流動が減少し生産性は高まる」趣旨の実証研究と論文は、逆説的にそれを表していると思います。
労働生産性を上げるためには、人を減らすのではなく、人を評価して上げるべき人の賃金を上げて、彼らが活き活きと働く環境を作ることが重要だと考えています。


 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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