こんにちは。築山です。
沖縄県産業振興公社が主催する「沖縄型グローバル産業人材育成事業」のセミナーで再び講師をしています。今回は、グローバルビジネスの潮流を見据えてキーワードとなる言葉(お題)をいくつか与えられ、それに関して講義を行う形式です。
最終回となる第4回目の講義は『人材育成』でした。これまで『デザイン経営』や、『サーキュラーエコノミー』、『ブランディング』と講義をしてきましたが、結局のところ、これらを理解し実践する人材や仕組みが重要になってくるため、最終講義のお題は(必然的に)これになりました。ヒト・モノ・カネは、よく言われる「三つの経営資源」です。カネは有限ですし、モノも経年劣化する一方で、ヒトだけは成長をし続けることができます。
人材育成が上手くいかない理由①:構造的な理由 キャリア初期からつまずく沖縄の人材育成と負のサイクル
以前のブログでも申し上げたように、沖縄で何らかの人材育成を行っている企業の割合は全体の僅か15%しかありません。加えて、沖縄県の年代別失業率は10代後半〜20代前半が全国平均の2〜4倍と突出して高く、新卒者の3年以内離職率も全国平均の1.3倍もあります。
このデータから推測されるのは、多くの沖縄の労働者がキャリア初期に習得すべき社会人やビジネスパーソンとしての基礎知識やスキルを学ぶ機会を逃し、その後も人材育成の環境や文化が備わっていない企業でマネジメント職に就くので、次の世代を適切に育成することが難しい「負のサイクル」が起きている状況です。実際、コンサルで訪れる職場でもこうした状況を話してくださる方々に多くお会いします。
状況を改善するために沖縄県が行う各種人材育成プログラムの予算(原資は補助金や税収)は、同じ人口規模や県民所得の自治体の2.4倍ですが、労働生産性も県民所得も全国ワーストレベルから抜け出せていません。
こうした事実は、人材育成においては、育成内容や育成される人間よりも、育成環境や育成する人間が重要であることを示唆しています。この課題構造を理解して改善しないことには人材育成は上手く機能しません。少し前に、出世する人材の共通点が「入社して1番最初についた上席が優秀」というツイートが話題になりましたが、ある意味で真理を述べていると思います。
人材育成が上手くいかない理由② 育成側の勘違い:知性のレベルと自己変容の理解不足
発達心理学の権威であるハーバード大学のロバート・キーガン教授によると、人材育成が上手くいかない原因の多くは、成人の成長には知性のレベルがありそれに応じた育成を行っていないこと、人材育成には「技術・知識の習得」と「思考・行動の変化(適応)」の二種類があり両者のバランス不足、若しくは、取り違いをしていることにあると述べています。
実際、世の中に溢れる人材育成プログラムの多くは、情報や知識の伝達に主眼を置いたプログラムであり、自分の思考・行動を変容させて課題解決をするようなプログラムは殆どありません。そして、企業や上司がやってしまう人材育成の間違いは、その人の適応力や変容を必要とする課題に対して、知識や技術的な手段(研修)で乗り越えようとさせることです。
変わらないのではなく、変われない。人間の無意識下にある「変化を阻む免疫機能」を存在を理解し、これを取り除く(固定観念や裏の目標をあぶり出す)ことで、自己変容の後押しをすることが重要です。これはスポットの技術的な手段(研修)では無理です。
人材育成には会社全体で取り組むことが大切
例えば、マネジメント研修を受けるマネージャーは、会社の外へ出て「非日常の環境」に身を置き、単発、若しくは、複数回の研修を「同じ志を持つ人たち」と受講し、例えば「ビジョンや信念の大切さ」や「部下を”やる気”にさせるコーチング」などのスキル(技術・知識)を山盛り学んで「モチベーション・アゲアゲ状態」になって帰ってきます。
研修を終え、元気になり、理想に燃えるマネージャーの目に映る自社の風景は、これまでと全く違って見えます。上司や同僚の業務のやり方が非効率に見え、会議はダラダラ進む割には何も決まらず、経営陣が語るビジョンまで不明瞭な気がしてきます。
「マネジメント研修を受けたのだから何か成果を出さねば…」と頑張って職場の改善を試みますが「非日常な環境」ではない現実の世界ではいろんなトラブルが発生しゆっくり物を考える余裕がありません。研修で出会った「同じ志を持つ人たち」も居ませんし、部下の反応は研修のシミュレーションでやった時よりも複雑で、なかなか「やる気」になってくれません。
孤軍奮闘するマネージャーは、やがて疲弊し疑念を持ち始めます「この会社は自分が力を発揮出来る環境じゃない」と…。『人材育成=研修』ではありません。マネージャーは部下を応援し、部下はマネージャーを応援し、経営者はマネージャーを応援しなければならないのです。人材育成は人事部だけの仕事ではなく、日々の仕事を通じて会社全体で育てる物なのです。
どこかで読んだ記事に、組織文化は時間をかけて作られた「秘伝のタレ」であり(良きにつけ悪しきにつけ)何を浸けてもそのタレの味になってしまう。タレの味を変えるには、行動と時間と継続が必要です。弊社が、単発の研修ではなく、業務の実践を通じて人材育成をする完全オーダーメイドのコンサルティングスタイルを採用している理由はここにあります。
築山 大
琉球経営コンサルティング