『貧乏人の経済学』から学ぶ沖縄の貧困対策

要約すると、本書に書いてある貧困層の選択と行動の論理はこうです。貧困層は、通常であれば、社会制度やサービスが提供してくれる便益にアクセスできず、人生の多くの側面において責任を背負い込み過ぎています。ギリギリの状況下で、常に何かしらの重要な判断を迫られており、それが原因で(頭では分かっているけど)重要なことを先送りにしたり、目の前の快楽を優先したり、明らかに不合理な判断をしてしまいがちです。

それは、例えば、カロリー過多や栄養不足によって健康上の問題を抱たり、保険や貯蓄などの少額投資をやらなかったことでその先に起こった大きなトラブルでさらなる貧困に陥ります。ビジネスの生産性は低く、教育カリキュラムから落伍すると、周囲や親の「期待の呪い」によって自尊心が低下し、ますます学ばなくなります。それによって、重要な情報にアクセス出来なくなり判断力が低下し、社会問題に無関心になったり、選挙で何も考えず同族に投票しがちで、身内贔屓と職務怠慢や汚職が横行する社会にしてしまいます。

 

沖縄の状況も似ている?

冒頭で述べたように、レベルこそ違いますが、沖縄の貧困問題もこれらと似通った状況であることが分かります。

例えば、家計支出の増減を全国平均と比べてみると、沖縄が全国平均より増加したのは、交通費(自動車関係費)、娯楽費、食費、家具・家事品、嗜好品・交際費で、沖縄が全国平均より減少したのは、保険・医療費や教育費などです。項目詳細を見ると、特に増加率が高かったのは、酒類、タバコ、菓子類、麺類で、これらは全て「より高価なカロリー」です。逆に、減少率が目立っていたのは、書籍、保険医療サービス、教育、保険医療品で「すぐに便益はもたらさないが、将来の利益に貢献するもの」です。

沖縄県の男性肥満率は全国1位、お酒と糖尿病と自殺によって全国屈指の短命県に陥っている原因も、これらと関係があると考えてよいでしょう。

また、沖縄県は、中学の学力テストの正答率は全国最下位が続いています。順位や経済力との相関だけが取り上げられがちですが、同時に行われる生徒へのアンケート結果を調べてみると「家族と学校の出来事について話しますか?」や「自分には、良いところがあると思いますか?」「先生は、あなたのよいところ認めていると思いますか?」という項目が全国平均より目立って低く、沖縄の子どもの自己肯定感の低さがはっきりと分かります

さらに、沖縄県の公務員の受験倍率は全国ダントツ1位で、労働生産売上は全国最下位であり、去年末から沖縄で起きている事件の数々は、職務怠慢や、隠蔽工作などによって被害が拡大したケースも多く、県民からも疑問を投げかけられている状況です。



 

沖縄の貧困対策の効果を上げるために、この本が教えてくれること

貧困を削減する魔法の杖はなく、一発で全て解決する秘法もありません。本書には、貧困層の選択と行動の論理を理解することで、彼らの生活が改善された実例が沢山書かれています。そうやって、従来の貧困対策や援助が機能しなかった原因やボトルネックを除去してより効果を上げ、それを積み上げることでしか前進できないのだと思います。

本書を読めば、貧困層の人であっても、中間層の人と殆どあらゆる点で何も変わっておらず、同じような欲望や弱みを持っている存在だと理解できます。不謹慎な言い方を承知の上で、分かりやすく言うならば、本書は『貧困層のマーケティング書』です。

上記を踏まえて考え出される貧困対策は、その問題が多岐で複雑であるが故に、従来のお役所的思考、つまり「網羅的」「できるだけ多くの人へ、均等に」とは真逆の「誰に何をする対策なのか」を明らかにした上で、個別対策を優先順位を決めてやることになるでしょう。

また、対象が「不合理な判断をしてしまいがちな人たち」である故に、提供サービスは「多くの人にとっての最善の選択肢がデフォルト設定されていて、それ以外を選ぶ場合には少々面倒臭い」システムに仕立てるべきでしょう。お金ではなく、現物やバウチャー交換式のサービスも増えると思います。ただでさえ数多くの判断に追われている貧困層に対しては、さらなる判断を強いる「お金」が、手段として適切でないこともあるのです。

そして、何よりも大切なことは、貧困対策とは「やるか?やらないか?」的な二者択一論でもなく「完全な効果が期待できないからやらない」といった他力本願な完璧主義でもなく、誰もが、できる範囲で立ち位置や行動を変えることで間接的にでも貢献できるものだと理解することです。その意味で、企業の経営者が、透明性の高い経営で、生産性を上げて従業員の給与を上げることも、とても重要な貧困対策です。

 

築山 大
琉球経営コンサルティング

 

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